生き物を紹介しましょうPart2:野生の動物を見たことはありますか?

2010 3/10

 先回は、KSCで出会った動物たちについて紹介しましたが、今回は珍しい動物の話をしてみたいと思います。と言っても、何が珍しいのか? 場所や文化で違いますね。「ミズバショウ」と言えば、“尾瀬!”という感じでしょうけど、北日本の湿地に行けば、ただの雑草になりかねません。日本では花壇や鉢植えで「ニチニチソウ」をよく見ますが、原産地のマダガスカルに行くと、(当たり前ですが)雑木として生えていて、ちょっと不思議な気がします(アロエも同様に、マダガスカルでは、そこここに生えています)。

◆ニチニチソウもアロエも、欧米のいわゆるプラントハンターが19世紀頃から、珍しそうな植物を片っ端からヨーロッパに持ち帰った成果でもあります。なお、勉強したい方は、白幡洋三郎『プラントハンター』(講談社学術文庫1735)がお薦めです。プラントハンティングから、育種産業、そしてそれを世界に販売していくワールドビジネスへ(今は、アフリカや中南米でバラを栽培して、欧米や日本に売り込んでいる世界です・・・・というように、なんでもレポートのネタになる! → 岐阜大関係のHPに資料がありました http://www1.gifu-u.ac.jp/~fukui/lecture/gazou04-2/04-2-004.pdf)。もちろん、日本の植物もプラントハンターの“毒牙(?)”の対象で、栽培種のバラは8種の原種を交配したものですが、そのうちの2種は日本原産のノイバラとテリハノイバラです!

 また、本当は珍しくないのに、夜行性だったり、人間を恐れたりすると、なかなか目に入らないものもいます。KSCでもタヌキノウサギもそうですよね。「キャンパスに住んでいる」というと、KSCはすごい田舎のようですが、京都でもイタチ等は意外に人家が立ち並ぶ中で徘徊していたりします(たいてい、帰化種のチョウセンイタチですが)。最近やかましいアライグマも、なかなか目につかないうちに、人家の周りにいつの間にか増えているというパターンです。

 ◆なお、侵入種・帰化種を含め、兵庫県の里の動物の研究をしているところに、兵庫県森林動物研究センターがあります(HPはhttp://www.wmi-hyogo.jp/F1.php?M=B5-9&F=F1)。研究者はほとんど私の知り合いです。こうした動物の害等について興味がある方は、紹介します。

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  その一方で、動物の方だって、人間などという怪しげな動物に会いたくはないのです。以前に、野生のヒグマを撮影した組写真を雑誌で見たことがありますが、それは谷の対岸からヒグマが採食しているところを撮ったものだったかと思います。そうこうしていると、山道を何も知らぬ人間が歩いてくる。気づいたヒグマは面倒くさそうに藪にひそみ、そのそばを何も知らずに歩み去ると、やれやれという感じでヒグマがまた出てくる、というものでした。だから、本当のことを言えば、「貴方が野生動物を見たことがなくても、野生動物の方は貴方を見ていますよ」というのがたぶん当たり前なのでしょう。

◆ついでに言ってしまうと、例えば、海外旅行や海外ボランティア等で、貴方々は他の国の方を珍しく見るかと思いますが、それはまったく同じことで、向こうの方もこちらを見ているわけです。それは当然のことで、かの有名な女性旅行家イザベラ・バードの明治初期(1878年6月~9月)の日本旅行を描いた『日本奥地紀行』(傑作です。是非、別の機会に紹介しなければ)で主に東北・北海道を紹介していますが(アイヌ民族を紹介した最初の英文記録の一つでもあります)では、彼女が日本人を見るよりも、物見高い群衆が東北日本に初めて現れたヨーロッパ人を見るべく、集まってくることを記述しています。

 さらに付け加えれば、アフリカの人と長く付き合っていると、向こうがこちら(日本人)をどう見ているか、結構、話のネタになります。例えば、アフリカ人が「僕の見るところ、日本人の女性はパン(Mkate;スワヒリ語)が好きだが、男性は飯(Wali)が好きだよね?」とか話しかけてきたので、こちらも「そういえば、イモ(Kiaji)やカボチャ(Maboga)は、日本じゃ女性の食い物ってことになっているけど(イモ、タコ、ナンキンですね)、そっちはどう?」と聞くと、「おう、そうそう、こちらでもそうだぜ」等と会話をしたものです。彼らは実は、好奇心満々で遠来の客を見ているのです。

 なかでも傑作は、かつて首都のダル・エス・サラームを訪れた経験がある男が、私に「ほれ、首都に行った時、日本人にすごくよく似てんだけど、男ばかり(独りで歩かず)いつも群れていて、頭を刈り上げにしている連中がいたじゃない。あれは何者なの?」と尋ねるので、「おうおう、それはきっと朝鮮民主主義人民共和国の人たちだよ(Koliya ya Kasukazini)」と応えたことがありました(1970年代、経済が悪化する前、同じ社会主義国として、タンザニアを援助していました。今から思うと、隔世の感があります)。

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 それで、珍しい動物と言えば、ちょっと渋いところで、インドネシア(スマトラ島)とアフリカ(タンガニイカ湖)の双方で野生のカワウソを見た者はそれほどいないかもしれません。

 ニホンカワウソは、1979年以降目撃されず、日本ではもう滅んでしまったみたいですね。北海道から九州まで、ほぼ全国に分布していたというのに、明治以降、あっという間に滅びます。浮世絵葛飾北斎と娘お栄を描いた杉浦日向子の傑作コミック『百日紅(さるすべり)』中の『稲妻』では、なんと江戸市中、堂々人に化けて、北斎が描き終えた作品を届けるお栄から絵を強奪した代わりに見事な鯉をおいていく、という設定になっているというのに(北斎とお栄の年恰好からすると、1810年代頃か?)。 なお、北斎の画像コレクションのHPのURLは http://project.lib.keio.ac.jp/dg_kul/ukiyoe_artist_title.php?id=010(なんと、慶応義塾大学のデジタルライブラリーです。差をつけられていますね)、北斎の漫画のコレクションのHP → http://www.hum.pref.yamaguchi.jp/ehon/ehon.htm#3です。

 同じように瞬時に滅びたものに、ニホンオオカミニホンアシカがありますが、その一方で、ほとんど絶滅しかけたエゾジカが復活して、自然植生や畑を荒らしてしまう。また、ほんのわずかばかりが捨てられた動物(アライグマヌートリア等)がやたらに繁殖する。どうしてこうなるのか、研究者にとっては永遠の謎かもしれません。

 こんなことでは、いつまでたってもカワウソに話がたどりつきません。スマトラでは、以前にお話ししたように、ボホロクのオランウータンリハビリテーションセンターに2カ月間いたのですが、ここはセンターにつながる道以外、人跡稀、おまけに山は切り立ち(あまりの傾斜に伐採もできないので、自然が残った、というだけの話なのですが)、かろうじて動けるのはボホロク川の川原だけでした。その川沿いに、カニクイザルトーマスリーフモンキーフクロテナガザルシロテテナガザル、そしてたまにオランウータンが見れるというところです。

 そんなわけで、ある日、川原に座っていると、ものの10mも離れていな岩の上に、いきなり1頭、川の中からぽんと飛び乗り、私と目があいました。また、川に身を投じて、姿を隠すまで、互いに見つめあったのは数秒程度でしょうね。分布域からすると、たぶんコツメカワウソだと思います(日本の動物園・水族館には結構飼われていて、このあたりでは海遊館ひらかたパークにいるそうです)。

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 その数年後、タンガニイカ湖のほとりで合計3年ばかり暮らしていた時には、結構、目にすることがありました。こちらは、湖を親子で数珠つなぎになって泳いでいたりします(もっとも、どれが親で、あるいはオスで、メスで、どれが子供か、波間でなかなかわかりません)。こちらは分布域から、ツメナシカワウソだと思います(写真がのっているHPがありました→ http://www.geocities.jp/kalahari_okavango/Otter/Otter.html)。

 どちらにしても、「見た」と言っても一瞬に近い。もちろん、野生動物にとって、人間等という「愚劣な二足動物(チェーホフ)」に会いたいはずもなく、秘かに我々/皆さん方をうかがいながら、また自分の生活に戻っていくわけです(To be continued)。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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