総政100本の映画Part12:旧東欧反体制映画の日々:国際政策を映画で勉強しよう(#2)

2010 11/8 総合政策学部の皆さんへ

 リサーチ・フェアも無事終了しましたし、それでは日常世界に戻ることにして、#1に続き旧東欧反体制映画の紹介を続けましょう。とは言え、ベルリンの壁崩壊(1989年)以降、いまやEUユーロが支配するヨーロッパで、かつての社会主義政権(いわゆるワルシャワ条約機構)に対する反体制派の人々はどうしているのでしょうか?

 理想を求めて結局挫折してしまったか? 「こんなはずじゃなかった」とほぞをかんでいるか? あるいは早々に資本主義者に変身して、金儲けに専念しているか? それとも、黙って田舎の別荘(ロシア語のダーチャ)で畑を耕しているか? みんなありそうなことですね。

映画番号#58:「バリエラ」:イエジー・スコリモフスキ監督、1966年公開のポーランド映画です。ゴムルカ体制まだ健在のポーランド、ポランスキーの『水の中のナイフ』から4年後。すでに体制は確立したかにみえ、単純な反抗はいまや児戯に等しく、大学生たちにも体制が要求する道をたどるしかないように見えるワルシャワの街で、そんな社会に疑問を感じる彼らの心象風景と彷徨。それが白黒のコントラストの強い画面に見事に映像化される。

 例えば、カフカの『』の主人公のように、すでにそびえたつ体制になんとか潜りこもう、そんな気概さえ失った若者に、どんな選択が残されているのか?

 映画.comでは「ポーランドの異才J・スコリモフスキーによる実験精神あふれる力作。レールの敷かれた人生に疑問を感じたある学生が、新しい生き方を求めて寄宿舎を出る。彼は夜行列車の中で出会った少女と一日を過ごす。まるで目に見えない障壁(バリエラ)の中で、出口を探そうとするかのような二人の放浪が始まる・・・・」と紹介されています(http://eiga.com/movie/48119/)。

 そう、バリエラは英語のバリケードにつながるかもしれない、貴方をつつむ“壁”なのです。

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#58:『砂時計』:ヴォイチェフ・イエジー・ハス監督、1973年公開、カンヌ映画祭審査員賞受賞。『バリエラ』の息苦しいまでに追いつめられた若者たちの心とはまたまた別の世界、青年が父親が世話になっているサナトリウムに向かう夜汽車(その車内のあまりの猥雑さ)、そしてやっと辿り着いたサナトリウムのめちゃくちゃさ、どうやら青年と父親はユダヤ系らしく、幼い頃を回想する心象風景と、夢とも現実ともつかぬ場面(=それこそ、ゴムルカ以後の、進むべき方向を見失いつつあるポーランドを象徴するわけですが)、そして観客が絶句するしかない展開・・・

 初めに観客の目に飛び込むカラー映像は、あまりに怪しげな夜汽車で、女性はみんな裸同然、何が起きても不思議はない無秩序の極み。一緒に観ていたパートナーが、「是非、今度はポーランドに行って、夜汽車に乗りたい。こんな夜汽車だったら、どんなに楽しいか!」と叫んでいました(あれから25年あまりたって、まだ、二人ともポーランドには足を踏み入れていません)。

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#59:『サラマンドル』:ここで、突然、ポーランドからスイスに話を飛ばし、永世中立国、みんなのあこがれの国スイスの反体制派映画作家アラン・タネールの1971年制作の傑作『サラマンドル』を紹介しましょう。

 さて、タネールの映画に共通の梗概は、みんなが幻想をもつ平和国家スイスとは、実は体制による締め付けによって(なにせ、カルヴァン神権政治で支配したところです)、一皮剥けばマイノリティを圧迫する息苦しい相互監視社会(カルヴァンが自らの著作を批判するスペイン生まれの人文主義者ミゲル・セルヴェートカトリック教会よろしく火あぶりにしてしまったのが1553年)、秩序からはみ出してしまった者たちは、いったいどこに行けばよいのか? ということに尽きます。

  •  スイスは、かの怪優オーソン・ウェルズ演じる『第3の男』の主人公ハリー・ライムの「イタリアはボルジア家の時代、戦争と流血が続いたが、ダ・ヴィンチミケランジェロを生んだ。しかしスイスの500年の平和で残ったのは、鳩時計だけだ」(出典:http://homepage2.nifty.com/cs-vision/meigakurabu%204.html)という台詞とはうらはらに、スイスの歴史は山岳地帯の貧しさゆえに、輸出するものは“血”=“傭兵”しかなく、自らの家業とした傭兵輸出が続きます。
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  •  しかし、その栄光もつかのま、フランス革命時のテュイルリー宮殿での虐殺(革命派により、ルイ16世を守ろうとしたスイス衛兵786名が全員虐殺される)等をへて、傭兵輸出は割にあわないことに気付きます。その後のスイスは、“鳩時計”ももちろん作りはしますが、その精密技術を活かした兵器産業に転換します。
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  •   しかも得意技は、戦争の当事者双方に武器を売り込むという、いたって上品なビジネスです。武器商人の王道とも言えましょう。例えば、第2次大戦での日本海軍の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)の機関砲はそもそもスイスのエリコンFF20mm機関砲のライセンス生産、それを撃ち落とすアメリカ海軍の対空機関砲も同じエリコンSS20mm機関砲、というわけです!
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  •   どうも、ハリー・ライム君は世界史をもう少し勉強した方がよいかもしれません。まあ、もともとアメリカ人ですからね、ヨーロッパで金儲けには長けても、教養を身につける時間はなかったのでしょう(なお、この台詞、グレアム・グリーンの原作にはなく、ウェルズの発案だったようです)。
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  •  ちなみに、エリコン系列の20mm機関砲は現代でも一部使用されているとのこと。優秀作なのですね。 なお、2002-2006年の兵器輸出実績、スイスはなんと世界第14位(Wikipeidaより)。
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 ちょっと話がはずれ過ぎました。このスイスの社会で、ちょっと社会からずれそうなジャーナリストのピエールと脚本家のポールが、新聞の三面記事をもとに映画の脚本を頼まれる。

 彼らはその当事者、実の叔父を殺害したのか、それともそれは銃の暴発だったのか、疑惑につつまれた女性ロズモンドに会いに行く。もちろん、叔父はスイスの“体制”の象徴です=まず、家長であり、という男の象徴というべき武器の持ち主である。対照的に、ロズモンドは、マイノリティにとっては地獄の業火のようなスイスにおいて、その紅蓮の火の中を自由にうごめく“サラマンドル(火とかげ)”=危険で魅力的な女、典型的ファム・ファタール、社会を破綻にもたらすかもしれない存在なのです。

 この女性を、名女優ビュル=オジェが強烈な個性で演じる『サラマンドル』、はたして、ロズモンドは叔父を撃ったのか? 真相は明かされるのか? もし、観る機会があれば、必見の映画です。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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