総政100本の映画Part13振り返り編:『ゴッドファーザー』そして『ワイルドバンチ』:暴力装置を通して見るアメリカ合衆国のなりたちについて#1

2010 12/23 総合政策学部の皆様へ

 昨年、ブログを投稿し始めた頃は、まだ要領もわからず、映画紹介もごく簡単にすませてしまいました。その頃、ほとんど名前だけの紹介に終わった作品をあらためて取り上げてみましょう。

 ということで、今回は「総政100本の映画編Part1:#1~#15、『桜の園』から『サイダーハウス・ルール』へ(2009/11/22投稿)」で取り上げたアメリカの映画監督コッポラの出世作『ゴッドファーザー』、そして同じくペキンパー監督の最高傑作の一つ『ワイルドバンチ』について、アメリカ社会にとって“暴力”は本質的なものなのか? という考察も含めて紹介したいと思います。仙谷官房長官の発言で“暴力装置”等ちょっと懐かしい言葉も飛び出す昨今、社会と暴力も興味深いテーマかもしれません。

 それでは映画番号#14:フランシス・コッポラ監督『ゴッド・ファーザー』Part1&Part2(Part3はやはりちょっと省きましょうね)です。ちなみに、“ゴッドファーザー”とはキリスト教社会でいうところの「代父母聖公会では教父母)」 、洗礼式に立会って、神との契約の証人となる者として、その後も信仰生活の導きをするはずの者です(Wikipediaから)。しかし、犯罪組織では、「擬制的親子関係」として、社会的装置の中に強固な人間関係を作り上げるツールとして機能します。

  こうして映画の原作者マリオ・プーゾは、イタリアからアメリカに最下層の移民として渡り、やがて犯罪組織を立ち上げて、擬制的親子関係で人々を支配する主人公ビトーを象徴する言葉として、「ゴッドファーザー」を小説のタイトルに選びます。実は、こうした事情は東西変わりません。日本においても、やくざさん等の世界では同様の擬制兄弟・親子関係がつくりあげられ、その表象として“事(さかずきごと)”をかわします。

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 『ゴッドファーザー』の解説に入る前の前置きとして、アメリカの移民社会に触れましょう。アメリカの“移民”は実に多様です。『ゴッドファーザー』の背景には、アメリカ合衆国の“移民”の問題が潜んでいます。1607年のバージニア植民地や1620年のプリマス植民地に住みつき、やがて先住民(インディアンあるいはネィティブ・アメリカン)を圧迫して、新大陸を支配し始めたのは、イギリスを中心としたプロテスタントの人たち、いわゆるワスプ(WASP=White, White Anglo-Saxon Protestant)です。

 WASPに対するイメージの例として、例えば、ウェブスターの『あしながおじさん』の続編『続あしながおじさん』(原題は「敵様(Dear Enemy;書籍番号#80)』をとりあげてみましょう。ジュディ夫妻に頼まれて孤児院院長として、周囲の無理解に孤軍奮闘するジュディの親友サリー・マックブライドは、養子に「メイフラワー号以来の血統がはっきりした子供」を希望するような方々に悩まされます。これがつまりWASPです。

 ちなみに、サリーの名前Sallie McBrideは、姓の出だしにMcがついています。これは「誰それの子」という意味のゲール系の言葉で、一目瞭然サリー自身はアイルランド系(=辛抱強い)とスコットランド系(=頑固)のダブルなのです。さらに、その燃えるような赤毛(=気性が激しい)が幾度も強調されます。また、サリーが末尾近くで互いの思慕を確かめあう相手役、Robin ‘Sandy’ McRae(=敵様)も姓は同様ですが、こちらはこれまた頑固な上に、自分の本心を素直に表にだせない「スコットランド系」という設定です。

 19世紀のアメリカ社会における孤児院や養子制度の研究材料としては、『あしながおじさん』より、『続あしながおじさん』の方がお薦めかもしれません。  

 やがてWASPはアメリカ合衆国のエリート層を形成します。こうしたイングランド系アメリカ人は現在人口の9%を占め、これにスコットランド系やウェールズ系等をあわせると13%ほどになるそうです。そして、いかにもエリート層として、歴代大統領の大半はこのイギリス系に含まれます。

  その後、ヨーロッパの社会の変化にあわせ、ほかの民族が次々に移ってきて、階層を形成します。現在、アメリカで最大の人口(17%)を占めているというドイツ系アメリカ人が17世紀末から20世紀前半にかけて現れます。このうちプロテスタント系はやがてエリート層に昇格していきますが、それでも、ドイツ系の大統領はフーヴァーニクソンのみにとどまっているとのこと。宗教的には、カトリックはその下に位置し(カトリック出身の大統領はケネディのみ)、そのまたさらに下にユダヤ系という結果になっていきます。

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 さて、19世紀にアイルランドで起きたジャガイモ飢饉は、小作人の立場でイギリスに小麦を輸出し、自らは新大陸からもたらされたジャガイモを主食にしていたアイルランド人をおいつめ、アメリカ大陸に大量のカトリック系移民を送りだすことになります(ケネディ大統領の曾祖父パトリック・ケネディも含まれます)。こうしてアイルランド系アメリカ人(人口比12%)となります。

 アイルランド人はまたオーストラリア等にも移住し、この結果、現在のアイルランド共和国(当然、北アイルランドは含みません)の人口が450万人にとどまるのに対して、アメリカ合衆国だけで4400万人、全世界をあわせると8000万人にもなると言われています。故郷にとどまることは半ば死を意味したわけで(じゃがいも飢饉では100万人以上が餓死)、200万人以上が故国を捨てて、“新世界”へ移住したと言われています。

 その際のアイルランドの人口減少のグラフはhttp://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d8/IrelandEuropePopulation1750.PNGを参照して下さい。こうして故国に残った者は死んでいき、故郷を捨てた者には生きる道が与えられたのです。

 『続あしながおじさん』のサリーは作業衣製造工場主の娘という設定です。祖先が新大陸で頑張って資本家まで出世して、娘を女子大学まで送ったという設定なのですね。これはケネディ家と似た展開です(アメリカに流れ着いた曾祖父は早死にしますが、二代目は港湾労働者から酒場の店主を経て、下院議員に出世、その息子(ジョセフ・ケネディ)はハーバード大学に進んで、投資家になります)

  ところで、労働者用の服の販売、これもまたいかにも19世紀から20世紀にかけての産業革命勃興期のお仕事ですね。それまでのエリート層が手を出さなかった仕事かもしれません。ファッションの人類学シリーズでもとりあげなければ。

  そしてこの小説は何より、サリーはブルジョア資本階級の「てっとうてつび軽佻浮薄(=サリーの自称)」な有閑女性から、見事な「孤児院経営者=社会運動家」にまで変貌をとげる女性の自己実現の物語とも言えます(Dear Enemy shows how Sallie McBride grows from a frivolous socialite to a mature woman and an able executive. It also follows the development of Sallie’s relationships with Gordon Hallock, a wealthy politician, and Dr. Robin McRae, the orphanage’s physician. Both relationships are affected by Sallie’s initial reluctance to commit herself to her job, and by her gradual realization of how happy the work makes her and how incomplete she’d feel without it. The daily calamities and triumphs of an orphanage superintendent are wittily described, often accompanied by the author’s own stick-figure illustrations英語版Wikipediaより)。 

 アメリカの福祉政策、あるいは女性の自己実現に興味がある学生さんは是非ご一読を。   

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 やがて、こうした移民の流れにポーランドクリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』の主人公、人種差別的発言連発のコワルスキーですね)やロシアからの移民も加わる。そして、この間、アフリカから大量の奴隷が輸入され、それがアフリカ系アメリカ人として現在の人口の12%を占めます。

 19世紀以降はイタリア系(カトリックが多い)も流れ込み(現在、6%)、さらに中国系等のアジア系が増加しそうと見るや(最初の中国系移民は1820年にアメリカに着きます)、1882年に中国人排斥法(Chinese Exclusion Act)が、1924年にはいわゆる「排日移民法」が制定されて、アジア系を締め出そうとする。その一方で、20世紀に入り中南米からのヒスパニック系移民、あるいは不法移民が流れ込み、社会問題化する。

 すでに1949年出版のロス・マクドナルドの傑作ハードボイルド小説『動く標的(The moving target)』では、行方不明の大金持ちが裏では不法難民のビジネスに手を染めている描写がでてきます。以下は、犯人の一人の女が、探偵リュ・アーチャーに語る言葉です。 「でも、いいお金になったのよ。二重取りしていたのよ。貧乏人の貯めた金を運賃としてまきあげて、農園にひとり頭いくらという約束で送りこんでるのよ。メキシコ人たちは何も知らないけれど、ストライキ破りに使われているのよ。そんなことをしているから、トロイは地方警察なんかからは守ってもらっていられるのよ。ルイスは向こう側で、メキシコ側の役人に鼻薬をきかせていたのさ」(井上一夫訳、創元推理文庫版) 

 こうして“遅すぎた移民”は次々に社会の最下層に吸収され、アメリカ社会の階層=ヒエラルヒーがいよいよ複雑化する。そんな社会現象を端的にあらわすのが、例えば、プロスポーツの世界です。以前、「プロモーターの時代:高畑ゼミの100冊および総政の映画100本番外編(2010/02/18)」でとりあげたボクシングです。観衆の前で流血を流すブラッディ・スポーツの典型であるボクシングでは、その時々の社会情勢にあわせて、大衆向けの英雄として、様々な民族出身者が変遷していきます。

 アイルランド系(ジョン・L・サリバン=初代ヘビー級チャンピオン;在位1882~1892) → モルモン教徒(ジャック・デンプシー;1919~1926) → アフリカ系(ジョー・ルイス;1937~49) → イタリア系(ロッキー・マルシアノ;1952~56) → アフリカ系 (モハメディ・アリ;1964~67、1974~78) → ロシア・ウクライナ(ニコライ・ワルーエフ;2005~2007、2008~2009; ビタリ・クリチコ;2004~2005、2008~)   

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 それでは、19世紀に遅れてやってきた移民のアイルランド人はどんな地位を占めたのか? まず、警察ならびに消防士です。Wikipediaには「1820年から1860年にかけて、アイルランド人はアメリカ合衆国内の移民のうち3分の1を占め、1840年代には移民の半分を占めるようになっていた。初期の移民の職業は警察官、消防士、軍人などが多く、アイルランド系の警官、消防士、軍人が活躍する映画が多い。これは移民として比較的後発だったため、命がけの危険な仕事にしかありつけなかった歴史的事情や、血気盛んなアイルランド気質ともマッチしている要因が挙げられる」とあります。

 アイルランド系の警官・消防士というイメージはハリウッドではいわば定番化して、『ディパーテッド』でディカプリオが演じるコスティガンはアイルランド系という設定ですし(ちなみにディカプリオ自身はイタリア系とドイツ系のダブルです)、映画『バックドラフト』の主人公である消防士スティーブン・マカフレイ(Stephen “Bull” McCaffrey)も姓の出だしにMcがついています。

 そして、アイルランド人が就いた職のもう一つのタイプは、酒場(ケネディ大統領の祖父が最初についた職)やギャングだったのです。19世紀、アメリカに渡ったばかりのアイルランド系移民のギャング”Dead Rabbits“,と、すでに土着化していたWASPのギャング”Natives”との抗争を描いた映画こそが『ギャング・オブ・ニューヨーク』、ディカプリオ君はここでもアイルランド系のギャング志望の若者を演じています。対する“Natives”のリーダーWilliam “Bill the Butcher”を演じるのはイングランド系名優ダニエル・デイ=ルイス 

 警官とギャング、なんとも対照的な取合せではありますが、これこそが“遅れてきた移民”としてのポジションであり、そこから徒手空拳でなりあがるためにボクサーを選んだのがジョン・L・サリバンだったと言えましょう。なお、『ギャング・オブ・ニューヨーク』の舞台はスラム街ファイブ・ポインツ、のちのイタリア生まれの犯罪王アル・カポネが育った街でもあります。 

 その抗争の風景を描いたイラストのURLはhttp://en.wikipedia.org/wiki/File:Dead_rabbits_barricade_new_york.jpg。ほとんど戦争です。 

 ということで、#1はそもそも『ゴッドファーザー』にまでまだ到達しないまま、いったん幕にして、 to be continued としましょう。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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