総政のための名言集Part9雑編;ロンガネージ、漱石、そして中島みゆき

2011 3/10 総合政策学部の皆さんへ

 今日は玉石混合(と言いつつ、もちろん本当はすべて“玉(ぎょく)”と思っているのですが)、名言集の雑編です。

 初めは、第2次世界大戦初期、イタリアからこの世界の悲劇を冷静に見据える文学者の言葉からです。ルネッサンス、いやシーザーキケロ以来のイタリア人のセンスは大したものだ、と感心せざるを得ません。凡百の軍事評論家よりも、はるかに近代戦の本質をうがっています(もっとも、イタリア軍が実戦に弱いのも定評がありますが)。

  • #41:「1941年1月10日
  •  イギリス人はこの戦争に勝つだろう。なぜなら、彼らは、戦争以外のことならばすべてできるからだ。
  •  ドイツ人は、この戦争に負けるだろう。なぜなら、彼らは戦争だけしかできないからである
  •                              (塩野七生『サイレント・マイノリティ』新潮社より)
  •   

 イタリアのジャーナリスト、レオ・ロンガネージが第2次大戦が始まってまだ1年半もたたない頃に記した日記の一節。現代の総力戦が何か? これぐらい的確に指摘している言葉もないでしょう。その後の展開が、ロンガネージの予言通りになったことは、言うまでもありません。

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  • #42:「よく色々なことを知っていらっしゃるのね、感心ねえ
  •     「ええ、大概の事は知っていますよ。知らないのは自分の馬鹿な事位なものです。
  •      しかし、夫(それ)も薄々は知ってます
  •     「ホヽヽヽ面白い事許り(ばかり)・・・・」
  •  

 ご存じ、夏目漱石作『吾輩は猫である』第6章、主人公の猫の飼主珍野苦沙弥先生(=漱石の“堅い”面での分身)宅で、美学者迷亭(=こちらは漱石の“軽い”面での分身)が、苦沙弥夫妻に古代ギリシャの最初の女医Agnodice誕生のくだりを講釈よろしくきかせた後で、彼の口説(くぜつ)に感心した奥さんとのやりとりです。

 皆さんも、是非、自己を客観視しながら、自らをからかう軽口がきけるように訓練して下さいね。実社会では、絶対に役に立ちます。

  •  このAgnodiceですが、英語版Wikipeidaは以下のように説明しています。
  • She was a native of Athens, where it was forbidden by law for women or slaves to study medicine. According, however, to Hyginus, on whose authority alone the whole story rests, Agnodice disguised herself in men’s clothing, and attended the lectures of a physician named Hierophilus, devoting herself chiefly to the study of midwifery(看護学 and gynaecology(産婦人科学).
  •   Women refused her service until she confessed to them that she was a woman. Afterwards, when she began practice, being very successful, she excited the jealousy of several of the other practitioners, by whom she was summoned before the Areopagus, and accused of corrupting the morals of her patients. Upon her refuting this charge by making known her sex, she was immediately accused of having violated the existing law, which second danger she escaped by the wives of the chief persons in Athens, whom she had attended, coming forward in her behalf, and succeeding at last in getting the law abolished; women were thereafter allowed to practice medicine and to be paid a stipend for their service」と説明しています。
  •  
  •  このくだりを迷亭先生は
  • 女さ、女の名前だよ。此女(Agnodice)がつらつら考えへるに、どうも女が産婆になれないのは情けない、不便きわまる。どうかして産婆になりたいものだ・・・」と、Agnodiceが男性に化けて医学を勉強、産婆を開業すると大流行りと説明してから、
  •  「ところが人間万事塞翁が馬、七転び八起き、弱り目に祟り目で、つい此の秘密が露見に及んで、遂におかみの御法度を破ったと云ふところで重き御仕置に仰せつけられそうになりました
  •  「丸で講釈見たようです事
  •  「中々旨いでせう。所が亜典(アテネ)の女たちが一同連署して嘆願に及んだから、時の御奉行もさう木で鼻を括った様な挨拶もできず、遂に当人は無罪放免、これからはたとひ女たりとも産婆営業勝手たるべき事と云ふ御布礼さへ出て目出度落着を告げました
  •  と怪気焔をあげつつ、#42のやりとりへと続くのです。
  •  

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  •  #43:「だれも 悪くは ないのに
  •        悲しいことなら いつもある
  •         願いごとが 叶わなかったり
  •          願いごとが 叶いすぎたり
  •           だれも 悪くは ないのに
  •            悲しいことは いつもある」(中島みゆき『悲しいことはいつもある』より)
  •  

 私の学生時代は、下宿にはラジオしかなくて、深夜放送で流れる荒井由美(当時、現松任谷由美)と中島みゆきの歌声はまったく衝撃的でした。中学の頃に初めて森進一の声を聞いた時と同じくらいの衝撃度でしたね。

 とくに、中島みゆきの歌詞はあまりの“濃さ”に圧倒されてしまいます。「誰も悪くはないのに 悲しいことはいつもある・・・」。ラ・ロシュフコーばりの、そしてさらにはより太宰治的なこの台詞。そして、名曲『世情』の二番、

  •  #44:「・・・・
  •        世の中はとても臆病な猫だから
  •         他愛のない嘘を いつもついている
  •          包帯のような嘘を 見破ることで
  •           学者は世間を 見たような気になる」(中島みゆき『世情』より)
  •  

 これをある論文のエピグラフに使ったら、都立大(当時、現首都大学東京)の文化人類学(イスラーム学)の泰斗故大塚和夫先生に怒られてしまいました。「高畑さん、使ったでしょう! 僕が使いたかったのに!」。大塚さんはその後59歳で急逝され、悪い事をしてしまったかな、と反省しています。

コメント:1

    投稿者:西尾 実| 投稿日時:2011/03/11 12:21

    先生こんにちは。総政4年の西尾と申します。先生のブログいつも興味深く拝見させていただいております。

    私も中島みゆきの歌詞には衝撃を受けたことがあります。我々の年代で「中島みゆき」と言えば、NHKのプロジェクトXの主題歌にもなった『地上の星』を思い浮かべる学生が多いと思われますが、私のもっとも好きな曲は『永久欠番』です。
    なんで知ってるの?と思われそうですが、実はこの歌詞は中学校の国語科の教科書に引用されていて、私も国語の授業でにはじめてこの曲に出会いました。はじめはあまり意味がわからなかったのですが、20歳を超えたころから(かなり時間がかかりましたが)少しずつこの曲の意味が理解できるようになってきました。

    特に

    「街は回ってゆく 人1人消えた日も
    何も変わる様子もなく 忙しく忙しく先へと
    かけがえのないものなどないと風は吹く」

    の部分が印象的で、ゼミやサークル、就職活動など4年間の思い出をふりかえると、なぜか自然とこの歌詞が思い浮かびます。「自分は果たして総政の永久欠番なのだろうか?」と考えながら・・・。

    タイトルとは関係のない話になってしまいましたね…。私のコメントのせいでこのシリーズは本当に玉石混合になってしまいました。高畑先生ごめんなさい。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...