高畑由起夫研究室生態学、自然人類学、霊長類学

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翻訳についてPart1:To be, or not to be・・・・・・・;楽しい英語をめざして

投稿日時:2011/05/9 07:19

2011 5/9 総合政策学部の皆さんへ 

  もう一つ新カテゴリー、“言語・コミュニケーションについて”をつくりました。そこで、まずとりあげたいのは“翻訳”です。とくに、英文和訳の世界から始めましょう。何に付けても、まずおもしろいことを見つけることが上達のコツ、ということで、近代日本文学史上、様々な訳が展開してきた“To be, or not to be, that is the question” から開幕です。

 ところで、皆さん、この言葉はご存知ですよね? かの劇聖ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の4大悲劇の一つ、1600~1602年頃に執筆、上演されたという『ハムレット』第3幕1場56行で主人公が語る有名な台詞です。そして、この“be動詞(存在動詞)”をどう解釈するか? 難しいですね。

  この悲劇の筋書きを粗っぽしく紹介すると、デンマーク王子のハムレットは、父王の急逝後、そして愛する母ガートルードの叔父クローディアスとの早々の再婚、そして叔父の即位に心が乱れます。そして、突然あらわれた父王の亡霊から、実は「叔父に毒殺されたのだ」と告げられ、復讐を誓います。しかし、それで良いのか? 果たして亡霊の言葉は真実なのか?

 かつて、古代ギリシアテーバイの王子オレステスが、母クリュタイムネストラとその愛人アイギストスによって父アガメムノンを殺され、その復讐を姉エレクトラにそそのかされて、父の復讐をとげながら母殺しの罪を犯す悲劇“オレステイス”にも似て(「ギリシア悲劇とその変奏Part1:高畑ゼミの100冊番外編」を参照)、ハムレットの心は揺れます。そして、ハムレットはこの有名な独白を始めます。

  • To be, or not to be. that is the question:
  • Whether ’tis nobler in the mind to suffer.
  • The slings and arrows of outrageous fortune,
  • Or to take arms against a sea of troubles,
  • And by opposing end them? To die, to sleep・・・・
  •  

 さて、この冒頭の台詞についての日本語による初訳は、御雇い外国人にして風刺漫画雑誌Japan Punchの発刊者チャールズ・ワーグマンによる「アリマス、アリマセン、アレハナンデスカ?」だそうです(究極の直訳というべきか、機械翻訳のようですね)。以下、年代順に並べましょう。 

  • 矢田部良吉ながらふべきか、しかしまた、ながらふべきにあらざるか これが試案のしどころぞ」(明治15)
  • 坪内逍遙世にある、世にあらぬ、それが疑問じゃ」(昭和8)
  • 久米正雄生か死か・・・・・、それが問題だ
  • 河合祥一郎生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」(英文学者で、母方の大叔父が上記坪内逍遥)
  • 小田島雄志このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ
  •  

  この“to be”の主語を己として、「世に在るべきか=生きるべきか?」と訳すか、それとも行為と考えて「復讐すべきかどうか?」とするか、さらにはより広い“世の中”ととらえて「世の中、このままでよいのか、いけないのか?」ととらえるか、be動詞は本当に難しいですね。皆さん、どう思います。翻訳では、こうしたケースがしばしば出来します。 

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  さて、To be, or not to be・・・・・について考えていくと、私など、ビートルズの名曲 “Let it be を思い出してしまいます。「そのままにしておきなさい」あるいは「あるがままでよいのです」とでも訳すべきでしょうか? アルバム名にもなっているこの曲、作詞作曲はレオン=マッカートニーですが、実質はポール・マッカートニーとのこと。その歌詞は以下の通りです。皆さん、練習に訳してみませんか。ハムレットよりは簡単そうです。

  • When I find myself in times of trouble
  • Mother Mary comes to me
  • Speaking words of wisdom,
  • “Let it be.”
  •  
  • And in my hour of darkness
  • She is standing right in front of me
  • Speaking words of wisdom,
  •  
  • Let it be.
  • Let it be.
  • Let it be.
  • Let it be.
  •  
  • Whisper words of wisdom:
  • Let it be.
  •   

 なお、Wikipediaの“Let it be”の項目によれば、「ポールは、1969年のゲット・バック・セッションでビートルズが分裂状態になりつつあるのを悲観していた頃、亡き母メアリー・マッカートニー[が降りてきて「あるがままを あるがままに (全てを)受け入れるのです」と囁いた。そのことにインスピレイションを受けて書いた」とあります。つまり、歌詞のMother Maryは本当のお母さんなのですね。うーん、とうなるしかありません。 

 ハムレットとポール、この二人の悩みはまた古今の若者たちの悩みでもあります。なお、“Let it be”のユーチューブ映像はhttp://www.youtube.com/watch?v=y-gyGiggAOI&feature=relatedです。

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 最後に一言。ここまで来ると、もう一つの言説を思い出さないわけにはいきません。いうまでもなく、赤塚不二夫原作の漫画『天才バカボン』での、バカボンのパパの決め台詞です。すなわち「これでいいのだ」。こうなると、ハムレットの悩みから随分遠いようにも思えますが、この言葉もまた、ハムレットとポールの悩みにも似て、また意外に近い真実を扱っているのかもしれません。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...


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