ヒーローと悪役について:映画その他を紹介しましょう番外編&アメリカ文化についてPart1

2011 9/16 総合政策学部の皆さんへ

 再び映画の世界にもどって、アメリカ文化の象徴、ハリウッド映画に代表されるアメリカ映画のヒーローとヒールについてご紹介しょましょう。いわばアメリカ文化紹介編ですが、資料として「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」(Wikipedia)を使いましょう。

 これはAFIアメリカ映画協会)が1998年の“アメリカ映画100周年”を記念して、その後毎年選定している「AFIアメリカ映画100年 (AFI 100 Years… ) 」シリーズの一つで、2003年6月に発表された「100 Heroes and Villains」です。最も偉大なるヒーローと悪役それぞれ50名を選ぶと云うリストです。これを見れば、アメリカ人が誰を“ヒーロー”を見なしているか、即座にわかってしまう、かもしれません。

 ということで、誰がトップでしょうか? ちょっとわくわくしますね。 まず、ヒーローの上位10位までご紹介しましょう(なお、10作のうち、私が映画として観たのは6本、そのほか原作の小説を読んでいるのが1本です。それと、ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドはシリーズの別の作品で観ています)。

 これを見てぱっと、パターンがわかる方はいらっしゃいますか? すぐわかりますね。とくに1位が『アラバマ物語』の主人公フィンチ弁護士というところは、素朴なアメリカ人への尊敬のまなざしを感じます。 ストーリーを紹介すると、

 人種的偏見が根強く残るアメリカ南部で、白人女性への暴行容疑で逮捕された黒人青年の事件を担当する弁護士アティカス・フィンチの物語。当時の出来事を、後に成長した娘のスカウトが回想するという形式をとっている。

 「物語はアティカスが担当した裁判を中心に展開するが、この作品は単なる法廷ドラマに終わらず、子供の視点から見た大人の世界や、周囲の人々に対する純粋な好奇心などをノスタルジックに描いている。

裁判の日。陪審員は全て白人という被告にとっては絶望的な状況で、アティカスは滔々と弁護を開始する・・・」。(Wikipedia

 実直で、主義のために右顧左眄せず、黙々と自分の果たすべき仕事をする男=歌舞伎で言えば言うまでもなく立役中の立役、実事の世界です(立役について詳しくは、「芸術家たちPart2:俳優の“我儘”と“憂鬱”後編:歌舞伎の和事、実事、荒事とは?(2011/05/26)」をご参考にして下さい)。

 それにしてもアラバマ物語とは渋いですね。南部出身の女性作家(そして、ついにこの一作で終わってしまう)ハーパー・リーの原作です(リーは作家トルーマン・カポーティの幼馴染で、この小説に出てくる少年の一人はカポーティがモデルだそうです)。

 実は、私は小学校の頃に、『暮らしの手帳』に連載されていた翻訳を読んだだけで、映画は観ていませんがこれが、アメリカ映画最高のヒーローだと云う点については、アメリカ文明を見直してもよいかな、とちょっとそんな気にさせる作品です。なお、グレゴリー・ペックはこの演技で第35回アカデミー主演男優賞を獲得(ほか、脚色賞、美術賞も受賞)。同年の映画では、ヒーローの第10位、アラビアのロレンスを抑えての堂々の受賞です。

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 さて、この実直で果たすべき仕事をする男のパターンは、第5位の保安官ウィル・ケインに通じるかもしれませんし、(残念ながら私は観ていませんが)第9位のジェームズ・スチュアート演じるジョージ・ベイリーにも共通するでしょう。ペック、クーパー、ステュアートは(少なくともその中年以降は)まぎれもないアメリカ映画の“善玉”としての立役者なのです。

 ちなみに同じような役者にヘンリー・フォンダがいますが、彼は第12位『怒りの葡萄』、そして第28位『十二人の怒れる男』で主役を張っています。なお、50位中にもっとも多くランキングされたのはクーパーの3作です:面白いことに、クーパーの他の2作、25位の『打撃王』は実直なヤンキースの大スタールー・ゲーリック、そして第35位の『ヨーク軍曹』は第一大戦の英雄アルヴィン・ヨーク軍曹でどちらも実在の人物です(つまり、実在のアメリカ人の英雄を再現して感動を与える点でも、稀有な俳優かもしれません)。

 一方、“陰のある実事”というべきか、実直さだけではこの世はやっていけない、しかし、人として生きるべき道を守らなければ、生きている値打ちがないこともまた知っている。それが第4位『カサブランカ』のリック・ブレインです。演じたハンフリー・ボガード生涯の当たり役となったハード・ボイルド型ヒーローです。

 『カサブランカ』の数年後に演じるチャンドラー原作の映画『三つ数えろ』で演じるフィリップ・マーロウとともに、ボガードのヒーロー的側面が炸裂する作品です(一方で、偏執狂的な側面として『ケイン号の反乱』で精神に異常をきたした艦長、あるいは『必死の逃亡者』の凶悪犯等も演じられる、多彩な俳優でした)。なお、『三つ数えろ』の主人公マーロウは第32位で、ボガードはリスト中2作でランキング・イン。

 そのほかにとりあえず気付くことと言えば、上位10名中、実在の人物はT.E.ロレンスだけですね。西部劇は『真昼の決闘』のひとつだけ(意外と少ない!)、SFも『エイリアン』の一つだけ。

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 次はどのタイプかというと、第2位のインディアナ・ジョーンズと第3位のジェームズボンドが冒険・活劇者の主人公、いわゆるわかりやすいヒーローですね。つまりは、荒事師ですね。江戸歌舞伎ではヒーローの荒事師が、アティカス・フィンチという実事に及ばない。これがアメリカ文明の一つの側面です。

 この活劇者のヒーローは、10位以下だと、第14位ハン・ソロ(『スター・ウォーズ』(ハリソン・フォード)、第18位ロビン・フッド(『ロビンフッドの冒険エロール・フリン;懐かしいと云うか、実は第2次大戦中はナチス・ドイツのスパイであったともささやかれている色男フリン-なお、“フリン”という名字はアイルランド系(国籍はオーストラリア人)で、アイルランド独立戦争の先駆イースター・ライジングでは、第一次大戦中のイギリスの敵国ドイツを頼ろうとしたこともあるなど、アイルランドとイギリスの微妙な関係を考えれば、それもわからなくはないかもしれません)。

 一方、陰のある活劇者のヒーロー、実は影があるというよりもエキセントリックだというべきでしょうが、それが第10位アラビアのロレンスです。欧米人から見れば、オスマン帝国に対するアラブ人の反乱を支援して、アラブ諸国独立に尽力した英雄ですが、アラビア人からみれば「そういえば、そんな男がうろうろしていたが、所詮はイギリスの国益のため、アラブ人を利用しただけの男」と見られている、かつ、自分でもそれを薄々とは感じないわけにはいかない、そんな複雑な男もまた、ハリウッド映画ファンからはヒーローなのです。

 国際政策、とくに乱れに乱れている中近東の現実を第1次大戦から勉強したい方は是非、映画ならびにロレンスの主著『知恵の七柱』、あるいは彼をアラブ側から評価するスレイマン・ムーサ(牟田口義郎訳)『アラブが見たアラビアのロレンス』 (中公文庫)をご覧ください。

 なお、ロレンスはヒジャーズ地方を支配していたハシーム家を支持しますが、第1次大戦後、ハシーム家は(もう一人のイギリス人 “intelligence officer” ジョン・フィルビーが支持した)サウード家に敗れて亡命します。また、皇子たちはそれぞれイラク、ヨルダン等に王朝を開きますが、イラクは革命にあって3代目で滅亡(最後のファイサル2世は射殺されます)、現在続いているのはヨルダン・ハシーム家だけです。

  ついでに言及すると、このジョン・フィルビーの息子でケンブリッジのトリニティ・カレッジ(2008年段階でノーベル賞受賞者31人)という名門中の名門に進学し、イギリス諜報機関(MI6;ヒーロー第3位のジェームス・ボンドはここに所属しているという設定でしたね)に入りながら、実は在学中に学友たち(Cambridge Five)とともにマルクス主義にそまり、ソ連の諜報員にスカウトされるのが“頑固者”キム・フィルビーです(本人の述懐「ソビエトのエージェントとなることに一秒の迷いもなく、大きな名誉だ」;Wikipediaより)。

 結局は発覚、ソビエトに亡命してベルリンの壁崩壊の前年、幸福なことに社会主義崩壊の現実を知ることなく天寿を全うしますが、数々のスパイ小説にインスパイアを与え、また実名でも小説に登場する等、まったく波乱万丈の生涯です(そして面白いのは、この思想を曲げなかった祖国への裏切り者を、イギリス人は必ずしも嫌いではない事です)。

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 そして、アメリカ人が大好きなもう一つのアーキタイプであるスポーツ選手代表、つまり完全マッチョなキャラが、言うまでもなく「イタリアの種馬(Italian Stallion)」」ことロッキー・バルボア。“ロッキー”という一つのキャラ、アーキタイプを作ってしまっともいえましょう(その流れは、クリント・イーストウッド監督の『ミリオン・ダラー・ベイビー』まで続いていると言えます)。

 チャンスを与えられた「三流の人物」が、突如目覚めて、真のヒーローに変身する。とはいえ、この頃のロッキーには素朴、純粋、不器用(とくに好きな女性に対して)という、“立役”タイプの要素もあったかもしれません。

 また、この映画自身が、「映画のオーディションに50回以上落選していたスタローンはポルノ映画への出演や用心棒などをして日々の生活費を稼いでいた。長い極貧生活を送っていたある日」、世界ヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリチャック・ウェプナー」戦でのウェブナーの善戦からヒントを得て、たった三日で脚本をしあげ、映画会社に売り込み、自らの主演を勝ちとるという“伝説”に彩られた映画であり(どこまでが本当か、誰も知らない)、アメリカ人のマッチョ・下流からの成りあがりというアーキタイプとなります。

  ちなみに、古い映画を見ていると、売れなかった頃のハリソン・フォード(例えば、『カンバセーション』)やスタローンがちらっとだけ顔を見せたりして、おお!と思ったりします。スタローン等、出てきた次の瞬間には撃ち殺されていたりしています。

 しかし、あらためてふりかえれば和事、つまり二枚目がいない。『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥールは二枚目に近いと思いますが、映画自体に“女っ気”が全然ありません(なにしろ、砂漠でラクダを駆って、トルコ軍を殺しまくる、という映画ですから)。『スター・ウオーズ』でのハリソン・フォード演じるハン・ソロはちょっと二枚目的ですが、あの映画の二枚目は当然主人公ルークでしょう。

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 最後に、もう一つのヒーロー像、すなわち“つよい女性”、この“つよい”を“強い”とするか、“勁い”とするか? 私の感覚だと後者かな? とりあえず、10位以内に堂々のランクインは『羊たちの沈黙』のクラリス・スターリングと、『エイリアン』のエレン・リプリー 、どちらも硬質の“戦う女”です。

 もっとも、リプリーがシリーズを重ねるごとにどんどん強くなっていく(もはやアンドロイド化するとでも言いましょうか)のに対して、クラリスは心にコンプレックスをいだきながら、不安のなかで凶悪犯人喰いンハンニバルからの教えと愛情のもと、次第に強くなってくる、その成長の物語と云う性格も漂います。Part2のネタばれでもありますが、『羊たちの沈黙』はヒーロー第6位、そして悪役第1位(ハンニバル)を輩出した稀に見る映画、とも言えるかも知れません。

 ちなみに10~50位にランクインした女性ヒーローについて紹介すると、第15位に第52回アカデミー賞で主演女優賞を勝ち取ったサリー・フィールド演じる『ノーマ・レイ』=生活のために必死で働く女性が、やがて“働く者の権利”にめざめ、組合運動に邁進するという社会派映画。男性ヒーローにおける実直な社会派立役=“素朴なアメリカ人”であるペック、クーパー、ステュアート、フォンダらに対応しているかもしれません。個人的には、最近はやりの“茶会派”より、こちらの方が“真のアメリカ文明”を体現していると思うのですが。なお、サリー・フィールドは第57回アカデミー賞で『プレイス・イン・ザ・ハート』でも主演女優賞を獲得、こちらもテキサスで自分の農地を守ろうとする農婦をめぐる実直な人間ドラマです。

 一方、第24位の『テルマ&ルイーズ』は、これがヒーローなのか? なんと7名の男性を殺害した「連続殺人犯人犯アイリーン・ウォーノス元死刑囚とその恋人ティリア・ムーアの物語」がモデルです(大きく脚色されていますが)。後年『モンスター』で再映像化、シャーリーズ・セロンがそれまでのステレオタイプの美女役から脱して、アカデミー主演女優賞を獲得したことでも知られています。

  ところで、同じように男性犯罪者がヒーローなのは、第20位『明日に向かって撃て』のブッチサンダンスぐらいですね。アメリカ人は、犯罪者をヒーローとすることにはためらうかもしれません。一方、たとえばフランス映画で同じ趣向で選べば、『太陽がいっぱい』のトム・リプリーは選ばれるでしょうかね? 少なくとも『現金(ナマ)に手を出すな』のジャン・ギャバンは選ばれそうな気がします。ところで、『テルマ&ルイーズ』と『明日に向かって撃て』の二つは、逃げながら犯罪を犯し続けると云うロード・ムービー的側面も持っているようです。

 続いて、50位以内に実在の女性をテーマにした映画が二つ続きます。第31位がこちらは「正式な法律教育を受けていないにも関わらず、1993年にカリフォルニア州の大手企業PG&Eを相手取って訴訟を起こし、3億3千3百ドルの和解金を勝ち取った女性」エリン・ブロコビッチを描く映画『エリン・ブロコビッチ』。法廷でのロッキーというところですね。

 そしてやや離れて第47位に、アメリカのプルトニウム疑惑において「原子力関連企業のカー・マギー社 (Kerr-McGee Corporation) の核燃料製造プラントで行われていた、安全規則違反と不正行為を巡るスキャンダルの中、28歳で謎の死をとげたカレン・シルクウッド(いわゆるシルクウッド事件 Silkwood Incident)が入ります。  

 この二人がヒーローに認定されるところが、アメリカ人の良識を信じたくなるところでもありますし、また、単なる人気投票として、時がたてばまた変わってしまうのでは、と不安になるところでもありましょう。

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 とここまでいったところで、まだまだヒーロー像さえ終わりません。このあたりでいったん打ち止めにしましょう。ところで、これがどうやらこの研究室ブログでは200番目の投稿のようです。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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