芸術家たちPart5:マエストロとは? 藤原隆信からジョット、ミケランジェロを経て北斎まで#1(似せ絵に見る個人の芸と家の芸)

2011 12/28 総合政策学部の皆さんへ

 “芸術家”というのはある意味、不思議な存在です。例えば、人類最古の美術の一つとでも言うべきラスコーの洞窟画の作者たちは、もちろん、名前も知られていません。

 また、人によっては「重要なのは作品そのものであり、作者ではない」と言うかもしれません。例えば、それが良い絵ならば“ピカソ”であろうと、“無名画家”であろうと、かまわないかもしれない。とは言え、洋の東西を問わず、“芸術家”があらわれてくるのもまた、世の理(ことわり)です。

 さて、中世の頃まで“芸術家”の多くは無名のまま、歴史の彼方へ消えて行きます。例えばポンペイの壁画、あるいは秦の始皇帝の兵馬俑、そしてエジプトの王家の谷から出てくる美術品等も同じです。

 日本でも、高名な『源氏物語絵巻』、『伴大納言絵巻』『信貴山縁起』『鳥獣戯画』についても、わずかに『鳥獣人物戯画』について、鳥羽僧正覚猷の名が伝わって入るものの、真偽定かならぬところは、皆さんも中高の美術史で習ったことでしょう。

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 そのように埋もれていた芸術家の個別性=“作家性”が、日本画の世界で表に現れ出したのが中世頃、例えば、似絵の名手藤原隆信(1142~1205)のあたりからでしょうか(Wikipediaによれば、もともと歌い手で名高かった隆信は、画家としての大成するようになると、反比例するように和歌の評価が下がるそうです。面白いですね)。

 さらに興味深いのは、日本では隆信がこうして作家性を発揮すると、その子孫に次々と似絵作家があらわれることです(隆信派と称された系統は14世紀の藤原豪信まで続くとのこと;Wikeipedia)。

 ここに、平安時代に始まる「特定の“家(いえ)”に公権力によって職業に関する特権=歴史学的用語では宮司請負制(かんしうけおいせい)」を連想すべきでありましょう。すなわち“家の芸”です。

 コミック『へうげもの』前半のスーパースター千利休につらなる三千家がいまだに続いているのをみれば、日本文化の伝統とも言うべきかもしれません(「あなたにとって、“仕事”とは何か? 陰陽師から漱石、そしてトム・ソーヤーからフランクリンまで;高畑ゼミの100冊Part 13-とくに卒業生の皆様へ」もご参照)。

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 こうして、日本の画家の作家性は、個人の名前よりも、家(あるいは流派)の名前がクローズアップされることもしばしばです。つまりは陰陽師の安倍清明のように、「何々家の誰それ」というように。
 
 それが何時しか、狩野派であっても、狩野永徳狩野探幽と、その末裔たる狩野養信(木挽町家狩野派9代目)とは自ずと軽重の差が開くことになるのです(なお、養信の弟子が狩野派最後の輝きである狩野芳崖橋本雅邦です)。

 とすると、常に個人名で語られる雪舟、その師周文等は大したものだと言わねばなりません。もっとも、彼らは僧侶ですから、子供を設けるわけにもいかず、家の伝承もできないのですが。

 ところで、日本ではむしろ仏師の方が作家性が先に強調されます。飛鳥大仏の作者に伝えられる鞍作止利(くらつくりのとり)を筆頭に、中世にはすでに仏師に院派円派慶派にわかれ、慶派より運慶快慶湛慶等が輩出したことは、皆さんご存知ですよね。

 これらの仏師は、仏像体内に銘記することで自分の名前を後世に残します。

◆中世日本でも、中世ヨーロッパでもそうした“家の芸”を支援するパトローンの存在も大きく、狩野派の祖狩野正信や2代目狩野元信を見出した足利義教や、永徳等を用いた織田信長、豊臣秀吉等も、ローマ法王ユリウス2世やレオ10世に負けぬ大パトローンだったわけです。

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 こうして作家性が尊ばれると、作品には個別作家の“しるし”が必要となります。それが落款側款花押サイン等になるわけです。

 箱書きもふくめて、“開運!なんでも鑑定団”等でも、あらためて作家性にまつわるそうしたイコンを評価するのを、皆さんも観ているわけです。

 またそう考えてみると、浮世絵の世界でも作家性が強調されるようになった時(その頂点は写楽かもしれません)、その風潮を翻弄/あらがうように、「春朗」「群馬亭」「宗理」「可侯」「辰斎」「辰政(ときまさ)」「百琳」「画狂人」「雷斗」「戴斗」「不染居」「錦袋舎」「為一」「画狂人」「九々蜃」「雷辰」「画狂老人」「天狗堂熱鉄」「鏡裏庵梅年」「月痴老人」「卍」「是和斎」「三浦屋八右衛門」「百姓八右衛門」「土持仁三郎」「魚仏」「穿山甲」と30回も改名したという(ここまでのところで、皆さん、誰だかわかりますか?)、一代の画狂老人葛飾北斎のアバンギャルドさは注目に値するかもしれません。

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 さて、それでは、誰が史上初の“芸術家”なのか? すなわち、その人の仕事(=芸術活動)について、その作者=個人を意識しながら評価される存在なのか(すなわち、“作家性”の評価)?

 とすれば、ヨーロッパ史上最初の偉大な画家として、作家性を備え、その個性によってたたえられたいわゆる“巨匠”として衆目が一致するのは、ジョット・ディ・ボンドーネ(1267~1337年)です。

 このジョットこそ、ルネサンス期の芸術家たちの祖、そして芸術家を輩出する工房システムを創り上げたマエストロ(巨匠)なのですが、それはto be continued・・・・・・としましょう。

 なお、これがたぶん2011年度のブログの最終と思います。皆さん、よいお年をお迎え下さい。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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