総政100本の映画Part14:ビジネスとしての映画;低予算、早撮り、その他#1

2012 1/15 総合施策学部の皆さんへ

 「総政100本の映画」シリーズ、少し休みが続いていて(番外編は結構あるのですが)、映画番号が#62でストップしていたようです。今回は、映画の予算と収支について、考えましょう。

 以前、「ギリシア悲劇とその変奏Part4、あるいは総政の100本の映画Part12:“インセプション”と“アリアドネ”」で、(資本主義の鏡たるべき)低予算で高収入の映画としてデニス・ホッパー監督・出演、ピーター・フォンダ主演、怪優ジャック・ニコルソンの出世作の『イージー・ライダー』(#57)を紹介しました。製作費$340,000(当時の360円の公定レートで1億2240万円)、今日までの興行収入$60,000,000(2160億円)と紹介しましたが、映画も資本主義の世界であるからして、当然、収支が重要になってくるわけです。

 さて、“ビジネス”としての映画、逆に、収支でこけてしまった映画から始めた方がわかりやすいかもしれません。映画が失敗するとどんなおそろしい出来事が待っているか? この手の話題でいつも取り上げられる例はマイケル・チミノ監督の大作『天国の門』(残念ながら、私は未見)でしょう。1980年公開のこの巨大西部劇は、制作費4400万ドルをかけて、興行収入は348.4万ドル、なんと10分の1も回収できず、「映画災害」と呼ばれた一大事件となります(Wikipedia)。

 監督のチミノが凝りに凝った挙句、本来1100万ドルの予算が4倍近くに突出、しかも最初のバージョンは5時間30分!(あなたは映画館の椅子で5時間半耐えられますか?) これを最終的には148分に削ったため、今度は映画の構成が破たん、ついに制作会社であるチャップリン以来の名門ユナイテッド・アーティスツが倒産に追い込まれるという顛末です。この結果、チミノはめでたく“呪われた映画監督”の仲間入りを果たします。

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 ところで、“呪われた映画監督”の筆頭は、おそらくイタリアの巨匠、ミラノのビスコンティ公爵家の末裔、ルキノ・ビスコンティでしょう。ココ・シャネルの紹介でフランスの名監督ジャン・ルノワール(印象派の画家のルノワールの次男)に師事し、やがて社会主義ネオレアリズムを経て、「華麗で美術性の高い作風」に転じる彼について、映画評論家の淀川長治山田宏一、そしてフランス文学者・元東大総長の蓮實重彦の鼎談では、この風に話が展開してしまいます(『映画千夜一夜』、中央公論社)。

蓮實:ヴィスコンティがシュトロハイムと似てすごいと思うのは、ヴィスコンティもだいたいみんな制作会社をつぶしちゃうんですね。『夏の嵐』でまずイタリアの一番大きな会社をつぶしちゃうわけです、ルックスと言う会社を。(中略)
 あれでルックス社をつぶして、『ルードヴィヒ』でまたつぶしちゃうわけです。もっと小さいプロダクションですけど、もう破産しちゃうわけですね。

淀川:『ルードヴィッヒ』も贅沢だったもんなあ。でもいま聞いとって、「ええーッ」とぼく思うに、蓮實先生は、冷淡に「あれでつぶしたんです」なんて簡単に言うんだから、冷酷に(笑)。こんな人と協力したら、全部潰れるよ(笑)。潰すことにちっとも反省ないもん。中略)

蓮實:だから同じ時期のイタリアの監督たちは、「ヴィスコンティだけ金使いやがって」っていうんで、みんな怒ってるわけですね。

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 一方、予算を考えると、“早撮り”も一つの手段でしょう。もっとも、初期のサイレント映画時代は「3日で1本」というような今日では想像を絶するような撮影が普通でした。現代では、座長芝居等に残っている雰囲気ですね。脚本もなにもあったものではなく、その場で出たとこまかせで撮ってします。

 日本最初の映画スター、“目玉の松っちゃん”こと尾上松之助もこの伝で、無声映画の巨匠牧野正三に見出され、生涯に出演した映画は1000本以上、それが1904年のことで満50歳で当時としても早い死を迎える1926年まで、22年、ということは1年間にほぼ45本、ということは1週間に1本弱の撮影です! なお、私自身は、尾上松之助の映像については“地雷也”等を断片的に観ただけです。

 現代の早撮り監督と言えば、このブログでも再三登場のクリント・イーストウッドが筆頭にあげられるでしょう。ともにアカデミー作品賞に輝く『許されざる者』は撮影期間が39日、『ミリオン・ダラー・ベイビーズ』は撮影期間が37日です。もっとも、撮影に入る前の準備段階で相当の時間を使っているようです。事前準備がしっかりしていれば、本番は軽い、レポートでもECのプレゼンでも同じですよね。

 ちなみに『ミリオン・ダラー・ベイビーズ』は制作費用3000万ドル、興行収入はアメリカで1億ドル、全世界で2億1000万ドル、その数年後、ポーランド系元フォード社員の頑固な老人を演じた監督・主演映画『グラン・トリノ』は制作費用3300万ドルで、全世界の興行収入が2億7千万ドルというわけです。こうした“すご技”も、かつて『ホワイトハンター・ブラックハート』等でつまずいた(興行収入はたったの231万ドル)経験が生きているのかもしれません。

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 ちなみに、イーストウッドと師ドン・シーゲルをB級映画の世界から、一躍抜擢させた『ダーティハリー』もこうした低予算・傑作映画の一員です。そして、『ダーティ・ハリー』と同様に本来B級映画のはずなのに大ヒット、「あまりに大根なので、表情が動かないアンドロイド役に抜擢された」シュワルツェネッガーを一躍アメリカン・ヒーローに押し上げるきっかけとなった『ターミネーター』も制作費640万ドル、全米興行収入3837万ドル、全世界興行収入7837万ドルの低予算映画の鏡です。

 それにしても、“呪われた監督”マイケル・チミノは『ダーティハリー2』の脚本でイーストウッドに見出され、イーストウッド主演の『サンダーボルト』で監督デビューしたというのに、この“師弟”の変遷にはうーんとうなるばかりです(ちなみに、『サンダーボルト』は制作費400万ドル、興行収入はアメリカだけで2170万ドルときちんと収支がとれているようです)。それでは、このあたりでto be continued…..としましょう。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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