生き物を紹介しましょうPart9:害虫と雑草について#1

2013 2/13 総合政策学部の皆さんへ

 本日のテーマは、雑草と害虫としましょう。ヒトの都合によって、“雑草”“害虫”といかにもマイナスな名称で呼ばれている生物たちです。

 ちなみに、かの『広辞苑』では、雑草とは「自然に生えるいろいろな草。また、農耕地で目的の栽培植物以外に生える草。たくましい生命力のたとえに使うことがある」とあります。また、害虫は「人畜に直接害を与え、または作物などを害することによって人間生活に害や不快感を与える小動物の総称」とでています。

 しかし、自然の進化においては、害虫も雑草もそれぞれ地球生命30億年の歴史を生き残ってきたわけで、ヒトとのおつきあいはアウストラロピテクスから数えてもせいぜい4,500万年、雑草に至っては、農耕が始まってたかだか1万年のおつきあいでしかありません。

 ヒトがえらそうに「害虫・雑草」と呼んだとしても、なかなか絶滅するわけもないことはおわかりいただけるかと思います。

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 以前のブログでも触れたかもしれませんが、新約聖書でのキリストの言葉には農業と牧畜(=地中海農耕文化)の譬えが目につきます。“麦”と“毒麦”もその一つです。

  マタイによる福音書13章24-43節、Wikipediaでの「毒麦のたとえ」を文語訳新約聖書から引用します(なお、文語訳聖書の言葉使いには何とも言えない魅力が漂っています)。

また他の譬を示して言ひたまふ
 天國は良き種を畑にまく人のごとし。
  人々の眠れる間に、仇きたりて麥のなかに毒麥を播きて去りぬ。
   苗はえ出でて實りたるとき、毒麥もあらはる。
僕ども來りて家主にいふ「主よ、畑に播きしは良き種ならずや、然るに如何にして毒麥あるか」
 主人いふ「仇のなしたるなり」
  僕ども言ふ「さらば我らが往きて之を拔き集むるを欲するか」
主人いふ「いな、恐らくは毒麥を拔き集めんとて、麥をも共に拔かん。
 兩ながら收穫まで育つに任せよ。收穫のとき我かる者に
  「まづ毒麥を拔きあつめて、焚くために之を束ね、
   麥はあつめて我が倉に納れよ」と言はん」

 Wikipediaではこの意味を「ある人の畑に、敵が毒麦をこっそりと蒔く。しもべ達が気づき、すぐに刈り取ろうとするが、主人は収穫の時期を待つよう指示する。すぐに抜けば良いものも抜いてしまうが、生長しきったときなら完全に選り分けることが可能だからである」と解説します。納得させられますね。

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 さて、 このドクムギ(毒麦)は学名を“Lolium temulentum、コムギ・オオムギと同じイネ科の草なのですが、「悪魔に蒔かれた子ら」として刈られ、つまり憎むべきものとして焼き尽くされる運命にあります。

 それというのも、芽が出た段階ではムギと区別がつかないのに、「バッカクキン科Neotyphodium属の感染により、菌の生産する昆虫に対する神経毒ロリンアルカロイド」や「動物への毒性を持つ麦角アルカロイド」が含まれたりするからです。つまり、ドクムギはそれ自体が毒を出すわけではなく、菌類の感染で有毒物質ができるわけです。

  ついでに紹介すれば、この麦角菌(バッカクキン)に感染したコムギやライ麦から誘導される物質の一つが、強力な幻覚剤LSDなのです。

 さらにおまけをつければ、こうした“有毒物質”がたまたま病気に効く場合は薬ともてはやされ、雑草”がめでたく“薬草”に昇格する、そんな結果が訪れることもないわけではありません。

 現に、このLSDも発見された際は「1950年代に入ると世界各地でLSDを使用したことによる強烈な体験を精神医療に利用しようとした」ということです(Wikipedia)。もっとも、結局は薬よりも幻覚剤としての使用が一般化して、やがて禁止薬物になってしまいます。

 とここまでくれば、「雑草や害虫とは人間の勝手なラベリングであり」、状況がかわれば「手のひらを返すようにもてはやすこともある」、むしろそれこそが我々人間の特徴なのだ、という本日の主旨もおわかりいただけるかと思います。もちろん、、これは「雑草/害虫」に限ったことではなく、いわゆる“マイノリティ”に対してもよくあることだ、と指摘しておきましょう。

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 さて、雑草、とくにヒトの周囲で暮らす雑草には、ある種の感慨を感じないわけにはいきません。

 例えば、Wikipediaの“雑草”では、「特定の分類群を示すものではないが、人間の活動によって強く攪乱を受けた空間を生息場所とする点で、共通の生態学的特性を共有することが多い。転じて、重視されないがたくましい存在、悪く言えばしぶとい存在として、比喩に用いられる」とあります。

 この“しぶとさ”ゆえに嫌われる雑草は、しかし、ヒトのそばにとどまってこそ発揮できる“しぶとさ”でもあり、ヒトがいなくなって自然の遷移が進めば、あれだけ身近だった雑草たちはやがてその地を追われることもあります。

 例えば、このKSCにもよく見かけるセイヨウタンポポ。私も以前は、日本に侵入してはびこる憎っくき外来生物と思っていましたが(事実、その通りなのですが)、少し調査してみると、ニュータウン等のヒトが攪乱した土地にははびこっていますが、そのタンポポでさえ、人がいなくなれば遷移が進み、もっとほかの植物に駆逐されるかもしれません。

 それゆえ、雑草はたとえどんなにヒトに嫌われながらも、ヒトのそばに住みつかざるをえない。そして、やがて来る環境の変化に備え、セイヨウタンポポは栄養生殖単為生殖など、ありとあらゆる手段を駆使して絶えず増えよう、もっと生き場所を拡大しようと、“けなげに”努力しているようにも見えてきました。

 このように、ちょっと身を入れて調べてみると、生き物についての好悪の評価は難しいものがあります。要注意外来生物に指定され、かつ、“日本の侵略的外来生物ワースト100”にまで選定されているのに、ちょっと情が移りそうです(もちろん、こうした攪乱はない方がよいので、やはりお引き取りいただくしかないのですが)。

 このタンポポも野菜と思えば、また見方も変わる! 原産地のイタリアなどはサラダに利用します(アメリカの短編小説の妙手O・ヘンリーの掌篇では、“タンポポのサラダ”が若い男女の思わぬ再会をもたらします)。また、日本では、鶴橋のコリアン・マーケットのキムチ屋さんでは、春になると旬のキムチとして、タンポポのキムチを売っています。ちょっと苦くて、なかなかの味です。

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 ということで、今回、害虫まで話がまわりませんが、雑草一つとってみても、「何が雑草なのか?」、「雑草は、ヒトに嫌われても、ヒトにすがって生きるしかないかも?」、さらに「雑草も、ヒトの都合でめでたく野菜に昇格することもある」等々、話題に事欠かないことだけは覚えておいてください。

コメント:3

    投稿者:Kaz| 投稿日時:2013/02/13 13:13

    こんにちは!害虫と雑草について,大変興味深く,読ませていただきました.人間のegoで邪魔者の様に,扱っている雑草も,時と場合によって,人間の役に立つこともあるのですね.そのような途端,雑草に対する態度を豹変させる人間は醜いと感じました.
    旧約聖書の創世記では,アダムがエデンの,園の木から果実を食べた罪で,主は,「土は茨とあざみを生えいでさせる野の草を食べようとするお前に」 という,節がありますが,「あざみ」も雑草のように邪魔になる草なのですか?
    雑草を使った,漢方薬もありますか?
    また,健康に良いのは,どのような果物でしょうか?

    投稿者:高畑由起夫| 投稿日時:2013/02/14 16:02

    アザミの仲間(モリアザミ等)は、日本でも根を山菜として食べたりします。商品としては「山ゴボウ」と呼ばれます。なお、ヤマゴボウ科のヤマゴボウとはまったく別種なので、ご注意を。アザミの新芽も山菜として食べる種があります。

     雑草を使った漢方薬ですが、一般的に雑草とみなされている種でも、(漢方薬というよりも)生薬として使われるものにオオバコやオトギリソウ等、多々あるはずです。そこらへんにはびこるクズも、くず粉に注目すれば食品ですが、風邪薬としては葛根湯の原料の一つになるわけです。

     健康によい果物については、“健康”の定義が広過ぎて、答えにくい質問です。

    投稿者:Kazu| 投稿日時:2013/02/14 16:46

    高畑教授,メッセージと,質問に対する返信,どうもありがとうございました!
    「あざみ」は,茨の様に,人間にとって,厄介な種かと思いましたが,食べられる部分も沢山あって,逆に,食料不足等の際に頼もしい存在だったんですね.
    僕は,今まで「ヤマゴボウ」しか知りませんでした.生薬と,漢方薬がどんなカンジに,違うのかよく分かりませんが,中国の山奥には,高級な漢方薬になる草花がそこらじゅうに沢山沢山,生えているそうで宝の山のようなimageですが,日本でも高く売れるような雑草もありますか?
    四国の方の或集落の,落ち葉ビジネスのように,無料で採取出来る雑草を使い,何とか,よい雑草ビジネスを展開することは,無理ですか?
    果物は,自分はよく,血行が悪くなり普段の顔色もあまりよく無いため,ビタミンE(?)が豊富な果物を知りたいです(><)!

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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