小林一三と阪急文化圏、そして関西学院Part1

2013 3/7 総合政策学部の皆さんへ

 この研究室ブログにたびたび登場の小林一三、すでに「宝塚映画の謎Part1」「“市”をめぐる人類学Part1」「食べることについてPart9:カレーとラーメンについて」等でその都度ご紹介してきましたが、「乗客は電車が創造する」と豪語しながら、鉄道とデパートと住宅開発と娯楽施設で関西文化を作ってしまった」、この大資本家について、あらためてまとめてご紹介しましょう。

 さて、今や関西の代表的な企業である阪急ですが、事実上のその創設者小林一三は、実は山梨の生まれです。長じて上京、福澤諭吉の慶應義塾に入学、つまり、長峯先生や亀田先生、古川先生等の大先輩になりますね。

 卒業後、いったん銀行(三井銀行、現在の三井住友銀行)に入社しますが、やがて日露戦争後に大阪での出世話にひかれて東京を離れますが、そのあと、波瀾万丈の人生が待っています。

 まずは大阪での儲け話(証券会社の支配人) があっという間に立ち消え、失業してしまいます。異郷の地での逆境、その中で小林が目を付けたのが箕面有馬電気鉄道。銀行から金を引き出し、1907年10月、同社の専務に就任します(Wikipedia)。これが、小林と彼が手塩にかけた傑作“阪急”の快進撃の始まりです。

 ところで、皆さん、気づきませんか? “箕面有馬電気鉄道”、出発地は梅田で終点の一つが箕面、そして、もう一つの終点が有馬。そう、三田の近くの有馬温泉です。大都市である大阪から、遊興歓楽の地、箕面と有馬まで結ぶというコンセプトだったのですね。

 そして、この頃、宝塚はほとんど無名の地、そもそも宝塚などという地名もほとんど知られておらず、Wikipediaによれば、1889年の町村制実施で成立した「川辺郡小浜村・長尾村・西谷村、武庫郡良元村」が、1951年小浜村が宝塚町と改称、1954年以降町村合併を重ねて宝塚市となります(なお、宝塚温泉開業は1887年)。これこそ「隔世の感」というものです。

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 さて、大都市-観光地を結ぶコンセプトであった箕面有馬電気鉄道の実権を握った小林は、それまでの私鉄経営では考えられもしなかったビジネスプランを展開します(彼がその後次々に展開する大荒業の実態を、我々はつい当たり前の光景として毎日見ているわけですが)。

(1)沿線の土地を買収、開発を主導して通勤客を増やして、増収につなげる(ディベロッパー:1910年、池田で月賦方式による住宅分譲を開始)
(2)終点への集客を目指して、歓楽施設を設置(箕面動物園、宝塚新温泉(宝塚ファミリーランド)、宝塚唱歌隊[もちろん、現宝塚歌劇団])。さらに映画事業等への進出(宝塚映画、東宝)。
(3)都市ターミナルへ通勤客以外の集客を見込んで、ターミナル百貨店建設(現阪急百貨店
(4)百貨店経営からさらにホテル事業の展開
(5)大学等の高等教育機関の沿線誘致(もうお気づきでしょう、関西学院です)
(6)近郊型レジャー施設等(今はない西宮球場阪急球団

 つまり、電車が都市の間を走るというより、電車が走るところが都市になる。これら一連のビジネスプランを総括するのが、小林の「乗客は電車が創造する」という台詞です。Supply sideとDemand pullの双方を見越しての見事な商業資本主義の展開(供給が需要を創造し、その需要がさらに新たな展開を生んで、供給を刺激する)と言えなくはないわけですが、残念ながら、私はあまりに畑違いなため、どなたか他の先生にバトンタッチしたいところです。

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それでは、皆さん疑問に思いませんか? 箕面や宝塚は納得するとして、有馬はどこに行ったのか? 「阪急が有馬まで伸びていたら、三田駅周辺までは阪急で来れるのに」と思う学生さんもいるかもしれません。

 実は、阪急は有馬までの鉄道の敷設権を獲得しながら、小林のあまりの剛腕ぶりに、有馬温泉側が警戒、反対されたためとも聞いていましたが、Wikipediaの註には「理由として難工事と説明されているが、地形については難工事に該当する区間が特に存在しないため、有馬温泉の住民から反対があり断念したとの説が有力である」とあります。

この小林の人生、その浮沈の様子もなかなかの傑作ですが、私にとって一番面白いのは、戦前、近衛文麿細川元首相のおじいさん)に請われて商工大臣になったくだりです。

 迫りくる第2次大戦の気配に対して、小林はあくまでも自由主義資本主義者に徹しようとします。

 その挙句、“満州”で国家計画にめざめた当時の“革新官僚”である次官岸信介(のちにA級戦犯容疑をかけられるも不起訴、不死身の妖怪として復活、自民党総裁に登り詰めて第56・57代首相。いうまでもなく安倍現首相のおじいさん)の計画経済策に反対、「岸はアカ(=社会主義・共産主義者への蔑称)だ」と攻撃して、岸を辞職に追い込みます。

 しかし、自らも反撃を受けて大臣を辞めざるをえなくなる・・・・・・ ただし、このあたりは経済に門外漢である私には手にあまるようです。こちらもまた(55年体制等の是非も含めて)、どなたか、他の先生にお任せすることにしましょう。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...