2013年5月

ニワトリはどのぐらいの数の卵を産めるのか? 食べることについてPart12

2013 5/10 総合政策学部の皆さんへ

 今回のテーマは“卵(あるいは玉子)”です。と、たんに“卵”といっても、カズノコスジコタラコ、それにピータンの原料であるアヒルの卵や、中華料理などで使うウズラの卵も、みんな“卵”に含まれるわけで、ここではニワトリの卵、すなわち“鶏卵”に話を限りましょう。

そこで、最初の質問ですが、皆さんはニワトリがどのぐらい卵を産むか? 考えたことはありますか? 皆さんが食品メーカーやスーパー、あるいはそこに卵を卸す卸売業等に就職した場合は、必須の知識かもしれません。ということで、本日は“鶏卵”の話です。

 それではニワトリが1年に何個卵を産むか? ですが、Yahooで「ニワトリ 産卵数 農水省」で検索すると、「鶏」というタイトルのpdfファイルがでてきます(http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_katiku/zyosei/pdf/tori_h1804.pdf)。

どうやら畜産資料をまとめたもののようですが、そこに「(6)産卵鶏の能力の推移」という表があり、産卵率として平成16年度に84.2%とあります。この産卵率とは、「50%産卵日齢から1年間における鶏群の産卵個数」を「50%産卵日齢から1年間における鶏群の生存延べ羽数」で割った値に100をかけたものだそうです。すると、365日で産卵率84.2%とすれば、平均307.3個となるはずです。

農水省の別のページにも「1年間におよそ300個」とありますから、このあたりが日本の典型的な養鶏業者の平均値となるはずです。なお、先ほどの表には「日産卵量」が52.1gとあります。これも84.2%とすれば、卵1個の平均値は61.9gになって、これはいわゆるMサイズですね。ちょっと納得します。

 それでは、ニワトリはもともとこんなに卵を産んでいたのでしょうか? 実を言うと、日本で生産されている(あるいは我々が食している)卵のほとんどすべては無精卵、すなわちオスと交尾することなく、次々に産む卵なのですね。

これが野生のニワトリではオスと交尾をして、かつ孵った雛(ヒヨコ)を世話して育てなければならない。ということで、ニワトリの野生種であるセキショクヤケイ(赤色野鶏)の産卵数は数個から十数個ということです。つまり、現在のニワトリは品種改良の結果、交尾しなくてもほぼ毎日卵を産み続けるようになっているのです。

なお、ニワトリは採卵用の品種(この典型が白色レグホン)、鶏肉用の品種(ブロイラー比内地鶏)、そして闘鶏用(軍鶏)、あるいは愛玩・鑑賞用(オナガドリ)にわかれます。たった数千年間に、人間の欲望の結果、これだけの品種改良ができたわけです。

 ちなみに、野生の鳥の一回の産卵数(一腹卵数;クラッチサイズ)は、サイズの割に巨大な卵を産むことでしられるキーウィで1回1個(年2回ほど産卵するようです)、アホウドリでやはり1個、イヌワシが2個、ホオジロやウグイス等で3~6個等です。こうしてみると、絶海の孤島で繁殖するアホウドリの数がなかなか増えないのもうなづけるかもしれません。

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 さて、私は1978年、ドキュメンタリー番組のディレクターとしては草分けの一人というべき故牛山純一さんが作った日本映像記録センター(「素晴らしい世界旅行」等)にアルバイトの形で雇われて、撮影クルーの一員としてインドネシアに2か月滞在しました(オランウータンのリハビリテーションセンターを撮影するのが目的)。

これが最初の外国体験なのですが、これも当時の大物ディレクターの一人市岡康子さん(のち、立命館アジア太平洋大学で教授をされていました)に市場での買い物で、「日本と物価が違うのは、卵が高いのよ」と教わった記憶があります。

 つまり、採卵品種をケージ飼いして、1羽から年間300個も生ませるような体制があればこそ、卵は安くなるが、現地でほそぼそと卵を産ませている段階では、必然的に貴重品となり、高値なものになるというわけです。

たしかに、白色レグホンが普及する前、私が子供であった昭和30年代まで、卵も、そして鶏肉も、それなりに高価なものであった記憶があります。

 これはその後、訪れたアフリカでもそうで、私が滞在していたような奥地では、産卵数はごく少ない、大きく育てて肉を食べるのがふつうであり、それを卵で食べるなどとんでもない、というわけです。

「どうして日本人は、ニワトリまで育てないで卵で食っちまうのかね?」と真顔で尋ねられたこともしばしば。それを考えると、アフリカのほぼ半分を植民地化して、そこに建てたホテルの朝食で卵料理(目玉焼きスクランブルド・エッグポーチド・エッグベーコンエッグ等々)を平らげるイギリス人等は、食事的にも想像を絶する存在だったかもしれません。

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  さて、日本でもその状況はそれほど変わらなかったはずで、卵は貴重品であり、生卵は貴重品だったはずです。 

 現に、私が“ガキ”だった頃、ちょうと“三丁目の夕日(あのコミックは忠実な再現というよりは、ファンタジーと思った方がよさそうですが)”の昭和30年代前半は、生卵は貴重品で、例えば、入院のお見舞いに持って行くようなものでした。

その際は、たしか白いボール紙段ボールでは必ずしもなかったような)に、籾ガラをつめてそこに卵をいれていました。つまり、今の鶏卵パックは存在していなかったのです。

 ちなみに、川柳には「生卵 北極ほどの 穴をあけ」と出てくるので(浜田義一郎『江戸食べ物歳時記』)、江戸時代頃には生卵を食べる習慣もあったらしい、というのが江戸文学の権威、浜田先生のご指摘です。 

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 こうした養鶏は、ヒトとニワトリの共進化と言えますが、片方ではヒトにある種のリスクをもたらす場合もある。どなたも耳にしたことがあるかと思いますが、いうまでもなく鳥インフルエンザであったりするわけで、そのあたりはto be contienued としましょう。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...