ネクタイ考:ファッションの人類学Part 8

2013 12/14 総合政策学部の皆さんに

 最近、会合などの案内でも“クールビズ”でお越し下さい、等と書いてあったりするのですが、それでは、このクールビズとは何か?

 例によってWikipediaを開けてみると、「日本で夏期に環境省が中心となって行われる環境対策などを目的とした衣服の軽装化キャンペーン、ないしはその方向にそった軽装のことを示す造語である」とされていますが、その定義はまだ完全には定まっていないようです。

 例えば、衣服 クールビズは「ノーネクタイ 、半袖シャツ、かりゆしウェア 」はOK、「ポロシャツアロハシャツ、Tシャツ、タンクトップ、 ジーンズ、ハーフパンツ、サンダル」は×、そして「ノージャケット、チノ・パンツ、スニーカー」は意見が分かれる、ということになりそうです(Wikipedia)。

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  このように、最近は旗色がやや悪いネクタイ、この起源を皆さんはご存じですか? というのが今回のテーマです。私の知っている限りでは、日本におけるネクタイについての文献で古いものに『高橋是清自伝』があります。

 以前、「あなたにとって、“仕事”とは何か? 陰陽師から漱石、そしてトム・ソーヤーからフランクリンまで;高畑ゼミの100冊Part 13」でご紹介した、アメリカで奴隷契約の身に落とされてから、総理大臣までに出世して、かつ2/26事件で暗殺されるというジェットコースターのような人生をたどったあの方です。

 さて、この自伝では、高橋是清が1868年に帰国後、同士の鈴木六之助と、仙台藩江戸藩邸を訪れた話に、「ネクタイ」がでてきます。

いま楽山公は、芝の増上寺に蟄居していられる。二人がアメリカから帰ったことを申し上げたら、会いたいとの思し召しであるから、お目見えしたら良かろう」ということで、「私と鈴木はアメリカより帰りたての洋服を着て、浅井につれられ、増上寺にまかり出た。(中略)楽山公は立ったままでいられたが、そばにおった侍が洋服のネクタイを首巻と思って、静かな声で「御前の前だから首巻は取ってはどうじゃ」という。「これはネクタイでありまして、つけているのが礼であります。これをつけなければ、ちょうど人足のいでたちと同じようになります」と申し上げた。すると「そうか」といって顧みて笑ったようなありさまであった。

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  それでは、このネクタイの起源は何なのか? 例えば、現代のフロックコート等のダブルブレストがポーランド軽騎兵(ウーラン)の制服が起源だとすれば、ネクタイの起源は何か?

  Wikipediaによれば、それは首に巻くスカーフだったいうことになります。その説では「クロアチアの兵士がフランスを訪れた際、(中略)無事な帰還を祈って妻や恋人から贈られたスカーフを首に巻いたが、それを見たルイ14世が興味を示し、側近の者に「あれは何だ?」とに尋ねたところ、側近の者はクロアチアの兵士について尋ねられたと勘違いし、「クロアチア兵(クラバット)です」と答えたため、その布をクラバット(cravat)と呼ぶようになったという逸話である」「どちらにせよ、1660年ごろに人気のあったクラバットは、単に幅広のネッカチーフを首に巻いたものに過ぎなかった」。

 こうした経緯でヨーロッパに広がったネクタイが、1868年には洋行帰りの高橋是清が藩の重役に「つけているのが礼であります」と言い放つまでになる。そして、そのほぼ150年後、クールビスのおかげで、ネクタイ業界がやや左前になってしまう。服装というのもまことに不思議なものです。

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 ちなみに、日本のネクタイ業界は、東京ネクタイ共同組合という団体があるようです(http://www.tokyonecktie.or.jp/)。このHPによれば、2000年には輸入2403.1万本、国産は山梨が760.6万本、西陣714.4万本、京都アウトサイダー71.3万本、八王子491.2万本等国産合計2307.8万本ということで、日本には47010.9万本、つまりは国民一人あたり0.4本ぐらいになる検討です。

 しかし、これが2011年には輸入2351.1万本、国産合計実に570.5万本、計2921.6万本、国民一人あたり0.24本に減っている(それも国産はほぼ4分の1に減少)。日本のネクタイ産業は、そもそもネクタイ需要の長期的減衰と、国外からの流入であっという間に衰退しつつある、とも見えます。

 となると、ネクタイ業界がクールビズに抗議するのも理解できる気はします。とは言え、単にクールビスだけではこんなに減るはずはないかもしれません。言うまでもなく、かつて和服の需要が急変したように、次は服飾業界も大きな流れが出ているのかもしれません(=就活にもご注意を)。

 なお、2011年の輸入2351.1万本のうち、実に2140.6万本(91.5%)が中国からの輸入です。次がイタリアの164.8万本ですが、このネクタイの単価を知りたいところです。たぶん、中国=安価で大量、イタリア=高価で少数ということになるかと思います。そして、中国からの輸入品のうち、どのぐらいが日本資本で中国で生産された商品なのか? そのあたりも興味がわくところでしょう。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...