「ドイツ人は、この戦争に負けるだろう。なぜなら、彼らは戦争だけしかできないからである」:映画「フューリー」を観て

2014 12/7 総合政策学部の学生の皆さんへ

  本日は12/7、アメリカ時間では真珠湾攻撃で太平洋戦争が始まった日です(日付変更線の西側に位置する日本では12/8)。

 “時間”にすべてを支配される21世紀にふさわしく、詳しい時間経過をたどれば、真珠湾での戦闘開始はアメリカ海軍駆逐艦ワードが国籍不明の潜水艦(まちがいなく、真珠湾に潜行しようとする日本海軍特殊潜航艇「甲標的」5隻のうちの一隻)を撃沈したのが、現地時間で12月7日7時10分(日本時間8日午前2時40分)でした。

 なお、アジアでは日本帝国陸軍第18師団歩兵第56連隊がマレー作戦遂行のためコタバルに上陸、英印軍第8旅団と交戦したのが日本時間の12月8日午前1時30分で、こちらの方が1時間先行しています。

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 ということで、今日は久しぶりに戦争の話になります。実は、昨日、ブラピ主演の戦争映画『フューリー』を観てきました。スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』以来、いわば当たり前になった“戦場の現実”。飛び交う無数の弾丸に曳航弾が混じり、跳弾で火花がとびちり、そこら中に血が飛びちる。

 戦闘になれば、ほんの狭い窓から覗きながら戦車の巨軀(登場するM4AEシャーマン戦車は約30トン、対するドイツ軍のティーガーⅠ型戦車は57トン)を操縦するわけですから、うっかりすると友軍さえもひき殺しかねない(ブラッディ・オマハでは実際に、友軍を挽きつぶす事態が出来します)。

 敵軍、友軍、民間人でも、死体が行く手にころがっていれば、挽きつぶして進んでいく。そんな世界の話です。「世界で唯一動体保存されているあのティーガーⅠが映画に登場!」 (イギリスのボービントン戦車博物館でレストア)との謳い文句に惹かれて観たわけですが、皆さんにも是非観劇して欲しいところです。いや、国際政策志望の方は全員観た方が良いと思います、まったくの話。

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 ところで、この映画を観ながら私の脳裏によぎったのは、実は「総政のための名言集Part9雑編;ロンガネージ、漱石、そして中島みゆき」でご紹介済みのイタリア人ジャーナリスト、ロンガネージの台詞です。「#41:「1941年1月10日 イギリス人はこの戦争に勝つだろう。なぜなら、彼らは、戦争以外のことならばすべてできるからだ。ドイツ人は、この戦争に負けるだろう。なぜなら、彼らは戦争だけしかできないからである」(塩野七生『サイレント・マイノリティ』新潮社より)。

 “フューリー”の舞台は1945年4月、その4年前、第2次大戦が始まって1年半もたたない頃に記したこのロンガネージの日記の一節、大戦の行方を早くも見通した慧眼の一言、現代の総力戦とは何か? これぐらい的確に指摘している言葉もないでしょう。

 もっとも、戦車マニアだったら、1945年4月(翌月上旬にドイツ降伏)の設定ですから、ティーガーⅠからさらに一新され、Ⅴ号戦車パンターと同様に傾斜装甲が採用されたティーガーⅡを観たかったところかもしれません。しかし、複雑な設計故に量産が効かず(戦争以外はできないドイツ人!)、たった489両しか生産されなかったと言いますから、とても無理な話でしょう。

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 それにしてもドイツ人は、戦争だけはできる。「ティーガー1台に対して、シャーマンが5台なければ、対抗するな」と言われていたと聞いたことがありますが、大画面に映る姿はヘビー級ボクサー対ミドル級ボクサーぐらいの差です。

 ティーガ-が誇る88mm Kwk36L/56砲は、本来クルップ社が高射砲として開発した8.8 cm FlaK18/36/37砲で、射程2,000メートルで84mm、1,500メートルで92mm、1,000メートルで100mm、500メートルで111mmを貫通します。これでは、防盾76mm、前面装甲51mmのシャーマンは2000mの距離からでも破壊されてしまう! この88mm砲はドイツ語の音読みで“アハト アハト”の愛称でドイツ軍から絶大な信頼を寄せられます。

 一方で、M4A3E8の主砲である52口径76.2mm戦車砲M1A2では、特殊な高速撤甲弾(HVAP)でも使わない限り、ティーガーの前面装甲100mmを貫くことはおぼつかない。後ろに回り込んで、装甲の薄い側面、あるいは背後のエンジンを狙うか? リングでたたかうボクサーのような機動戦を、しかも4~5台でのチームワークで仕留めなければならない。

 映画の半ば、ブラピ率いる4台のシャーマンが、友軍を援護すべく、切所に急ぐ途上、突如、ティーガーⅠ型得意の待ち伏せ攻撃を仕掛けられます。まず、1台を仕留めてから、その巨軀をあらわにして、ゆっくり他の3両を仕留めに現れる。

 世界に冠たるティーガー乗員である以上、「負けるかもしれない」等とは絶対に思わない、いや、思った瞬間に負けてしまう! このヘビー級チャンピオンに必死に挑む3両、しかし、1台ずつ仕留められ、そして・・・・(ネタバレに注意して、ここではこの後は述べないことにしましょう)。

 つまりはこの映画は、北アフリカに上陸した時には、ルーキーだらけでドイツ軍にぼろ負け、イギリス軍からは「我々(連合軍)の中のイタリア軍だ」と言われていた連中が、いつしか『ヴィンランド・サガ』に登場のアシェラッドのような連中に変貌する、つまりはパットンの獅子吼に登場の「くそったれども」となり、かつてのスパルタのクサンティッポスのようなドイツ武装親衛隊と、ヘビー級対ミドル級の死闘を繰り広げる。

 その激闘シーンに間違って紛れ込んだ若造ノーマンがいつしか成長する、というにはあまりに早すぎる変貌を遂げざるをえない、そんな映画です(映画の終盤、生き残ったノーマンは救出に来た友軍に「お前は英雄だぜ」と言われます)。

 ちなみにティーガー対連合軍機甲師団の死闘では、1944年8月8日に戦死したナチスドイツ第1SS(武装親衛隊)装甲師団ライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー所属のミハエル・ヴィットマンSS大尉が、同年6月13日フランスカーン南方のヴィレル・ボカージュにおいて、たった1両で戦闘車両27台(戦車12輌[クロムウェル5、スチュアート3、シャーマン4]、ハーフトラック10輌、カーデン・ロイド・キャリア4輌、スカウトカー1輌)を撃破したヴィレル・ボカージュの戦闘が有名です(もっとも、ヴィットマンのティーガーⅠも戦闘の終わり頃、イギリス軍の6ポンド対戦車砲で破壊されます)。

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 それでは、武装親衛隊(SS)とは何か? それにはまず『フューリー』を観て下さい。ブラピ演じるドン「ウォーダディー」コリアー軍曹が、ルーキーノーマンにたっぷり教え込むように、皆さんに解説してくれるでしょう。本作中でしばしば展開する戦場の現実、とくにブラピがハーグ陸戦条約を無視して、降参したSS等を殺していくシーンによって。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...