ワニの心地よきまどろみ:生き物を紹介しましょうPart10:生き物として“保守”を貫くこと

2015 1/15 総合政策学部の皆さんへ

 皆さんは動物園やいわゆる“ワニ園”等以外の場所で、ワニをじかに目視されたことはありますか? 3年間のアフリカ滞在中、私は2度ほどワニのひなたぼっこを見かけたことがあります。JICA専門家としての任地、西部タンザニアはキゴマ州マハレ山塊国立公園タンガニイーカ湖畔をボートで行くと、砂浜で横たわっていました。

 ずいぶん大きなヤツで、たぶん4~5mの長さかと思います。しかも、私がいつも水浴びしている浜から1kmと離れていないあたりなので、ちょっと引いてしまうところです。ワニたちは、実際にはもっぱら魚を食べているようですが(漁網にかかった魚をおそうので、網が破られてしまう、とも聞きました)、分布から言えば結構危険なナイルワニのはずですから、あまり良い気分はしません。

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  さて、このワニ類の出現はかなり古く、中生代三畳紀中期にさかのぼります。なんと、現生の動物群の中では鳥類に最も近い。そして、絶滅種も含めれば“恐竜”や“翼竜”(彼らは“主竜類”にまとめられます)の仲間なのです。

 わかりますか? 三畳紀前期、爬虫類の中から①歯がまるでソケットに収まったように顎骨にはまっている、②二心室、二心房の心臓で高機能、③移動の際に、四肢が体軸から真横ではなく、斜め下か真下から生えているため、すばやく動ける等の特徴をもつ主竜類が進化します。

 そして彼らはやがて恐竜や、翼竜、そしてワニなどに分化する。さらに、その恐竜の一部から鳥類が生まれるものの、肝心の恐竜・翼竜は滅びてしまう。その結果、ワニ類と鳥類が生き残る、そんな進化の道筋をたどってきた連中なのです(Wikipediaより)。

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  このワニ類の生態学的特徴は、何よりもおよそ2億5000万年~2億年前の三畳紀より、形態がほとんど変わらないことにあります。そして、形態が変わらないことは、生活様式もあまり変わっていない。

 つまり、ワニ類は2億5000万年も前に、己の生存のために最適なニッチ(主に魚類等の水棲生物や水辺に近づく陸上動物を捕食する)を見いだして、そのまま(砂浜でひなたぼっこしながら)我が世の春を楽しんできた、ということになるのです。

 なんという省エネ人生! その間、分類上はいわばイトコにあたる恐竜類がすべて滅び、マタイトコにあたるトカゲ・ヘビ類(有鱗類)も哺乳類たちに主役の座をあけわたしているのを横目で見ながら、淡水域での主役を占め続けてきたわけです。これこそ“保守”の権化かもしれません。

 こうして保守派もうらやむ(はずの)ワニの長きまどろみ、が本日のテーマです(保守とは「古くからの習慣・制度・考え方などを尊重し、急激な改革に反対すること」Wikipedia)。

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 このワニの心地よきまどろみは、“人間”という直立二足歩行をするがさつな霊長類の台頭によって、はかなくも崩れ去ります。言うまでもなくハンドバックや財布等、様々に使われるワニ革のため、乱獲される、というお定まりの道です。

 保守派がいつまでも心地よきまどろみに安住できないのは、周囲がいつの間に変わってしまい、昨日の楽園が今日の地獄に化すからであり、それに対応するためには、“保守”をかなぐり捨てて、自らも変わらねばならない。これはいうまでもなく、進化生物学でいう“赤の女王”仮説です。

 ネットで調べてみると、例えばアメリカ合衆国のミシシッピ州では、野生のワニのハンティングはかなり厳密な許可制のようのです。Webを検索すると“Public Waters Alligator Hunting Info”というサイトが出てきます。そこでは、

Permits for alligator hunting are by Special Permit only. Applications for an opportunity to hunt alligators may be submitted electronically from June 2-9 only, via this website. (REQUIRED: applicants must have a valid MS hunting license to apply). Each person who gets drawn for a permit must attend (or have previously attended) a MS Alligator HUNTING TRAINING COURSE in order to qualify for their Permit to hunt and harvest an alligator in MS. Applicants must be at least 16 years of age and a resident of MS (MS Lifetime License holders are eligible to apply, as well).”とあります。

 このサイトにはワニ猟についての懇切丁寧な説明用pdfファイルも添付され、“Only legal methods of capture for the Mississippi Alligator Hunting Season are described in this Hunting Guide”とあります。そのlegal methods of captureとはどんなものかというと、(1) Snatch Hooks (hand thrown or rod/reel)、(2) Harpoon (with attached line and/or buoy)、(3) Snare (hand or pole type)、(4) Bowfishing equipment (with attached line and/or buoy)とあります。

 つまり、針で引っかけるか(ワニ釣り)、銛か、罠か、弓矢のようです。なかでも針でひっかけるのがポピュラーなようで、“A snatch hook is the common term used for describing a weighted treble hook attached to a line and thrown or cast over and beyond the alligator”とあります。たぶん、火器を使えば、あっというまに乱獲ということになるのでしょう。そこはアメリカ人の大好きな力業でワニをねじ伏せるというわけです。もっとも、そうやって捕まえたワニにとどめをさすのはショットガンのようです。

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  現在、ワニは世界的に乱獲が進み、野生個体が減ったために養殖が主流とのこと。Webで調べてみると、全日本爬虫類皮革産業共同組合のHPが見つかります。

 そこには、現生の3科9属23種のワニのうち、「ワニの背の部分を割き、腹(肚)部の鱗(腹鱗板)をいかしたタイプ」として、“肚(はら)ワニ”として、①イリエワニ(Saltwater Crocodile、Crocodylus porosus);パプアニューギニア、オーストラリア、インドネシア)、②ニューギニアワニ(Freshwater Crocodile、Crocodylus novaeguineae;パプアニューギニア、インドネシア)、③ナイルワニ(Nile Crocodile、Crocodylus niloticus;アフリカ諸国の淡水の沼や河川)、④メガネカイマン(Spectacled Caiman、Caiman crocodilus;南米・中米の沼や河川)、⑤パナマメガネカイマン(Central American Caiman、Caiman crocodilus fuscus;中央アメリカ)が使われるそうです。

 一方、“背ワニ”は、ワニの肚(腹)の部分を割き、頸部から背部の凹凸(頸鱗板・背鱗板)を活かしたタイプ」なのだそうです。

 これは上記の①イリエワニ、②ニューギニアワニ、③ナイルワニ、④シャムワニ(Siamese Crocodile、Crocodylus siamensis)、⑤ミシシッピーワニ(American Alligator、Alligator mississippiensis)、それと⑤上記メガネカイマンが該当するとか。皆さん、知っていました?

 こうした養殖ワニの片方で、ヨウスコウアリゲーターAlligator sinensis)やインドガビアルG. gangeticus )等、少なからぬ種が乱獲や生息環境の悪化でcritically endangered speciestとされているようです。

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 しかし、ヒトはいつからワニ革を利用するようになったのでしょうか? ちょっと判然としません。近代ワニ革産業の勃興について、さらに調べてみる必要がありそうだ、というところで、to be continuedとします。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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