明治~昭和期を生きた一北海道人の読書歴にもとづく書誌学的探索:“北海道開拓の村”から

2015 11/4 総合政策学部の皆さんへ

 夏に訪れた北海道は札幌郊外の“北海道開拓の村”、訪れるとなかなかに興味をそそるものです。

 何よりも、ペリー来航の衝撃から、突然“近代化”へのヒステリー的とも言える衝動に駆られ、様々な理由こそあれ、乗り出した“新天地”。しかしそこは本来アイヌ民族の土地であるはずが、理不尽なまでに“日本化”を強行した歴史を“圧縮”しているかのようです。そして何よりもこの動きが、やがて“大陸”へと指向していくそのいわば助走のような姿にも思えて、日本の近代化の本質が垣間見えるように感じました。

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 ということで、開拓の村から、まずは旧松橋吉之助(1875~1943)宅の蔵書を紹介しましょう。中学中退ながら会社経営とともに様々な分野を独学、『思念術 : 諸病治療及諸法術原理』等の著作もあるという吉之助氏は、その旧宅に膨大な蔵書を遺しています。それはそのまま訪れた客に背表紙を見せています。とは言え、本棚にはガラス戸がかかり、本自体をひもとくわけにはいかない。それで、背表紙をひたすら写真撮影していたら、ストロボを使ったためにカメラのバッテリーがあがってしまいました。

 私のFacebookに写真を載せているので、まず最初の写真から説明しましょう。この写真の右端に『戦時統制経済論』がありますが、著者の森武夫は帝国陸軍現役将校でありながら、法政大学から経済学博士の学位を受けた方だそうです(1933年11月)。統制経済(つまり計画経済)、現在の安倍首相の祖父、岸信介が展開したものですが、時代を感じさせます。すでに60前後に達した頃の松橋氏は、国家統制経済の本を読んで、何を考えたのでしょう。ちなみに、この森健夫は、『戦時統制経済論』の3冊左の『統制国民経済』の著者高木友三郎(東京帝国大学で金井延のもとで研究、内閣調査局専門委員から法政大学経済学に移る)から指導を受けたようです。

 別の写真には、『世渡りの道』(著者はなんと新渡戸稲造)、『哲学概論』(桑木 厳翼;専門はカントとのことで、鎌田先生向けかもしれません)、加藤弘之『自然と倫理』が並びます。と思えば、さらに別の本棚では、『理想的家の作り方』(角野、八木、山根先生向け?)、『素人に作れる無線電話の実験』(こちらは中野先生向けですね)等、多士済々、明治の人々の知識欲は無限大だったようです。 

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 それにしても、新渡戸稲造の『世渡りの道』!

 1862年9月1日(文久2年8月8日)すなわちペリー来航の9年後に生まれ、 1933年(昭和8年)10月15日、ドイツが国際連盟を脱退した翌日に死亡したこの教育者・思想家・農業経済学者はどんな「世渡り」を説いたのでしょう。

 ちなみに、新渡戸は現在の盛岡市に出生、農学を志し、東京英語学校(のち東京大学)を経て、札幌農学校の2期生として札幌に学びます。吉之助とは同じ“北海道”つながりです。新渡戸は最終的に1884年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学に私費留学しますが、このジョンズ・ホプキンス大学は1876年に世界初の研究大学院大学として設立され、大学院教育のシステムを確立したばかりの頃で、新渡戸は当時最先端の教育を受けたことになります。

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 その後、同じ岩手出身の後藤新平の招聘により、当時の日本の植民地である台湾総督府技師に就任(1901年)、台湾でのサトウキビ栽培、精糖業を推進します。その経験が新渡戸に「植民地経営」学への道を開き、1903年に京都帝国大学で植民政策を講義(植民政策で京都帝国大学より法学博士号授与)、東京帝国大学法科大学教授兼第一高等学校校長に転じます。1920年には国際連盟事務次長となり1927年まで勤めることになります。

 さて、『世渡りの道』ですが、アマゾンで調べると、なんと今年4月には文春文庫で再刊されています。アマゾンによれば「『武士道』を書いた新渡戸稲造が今も役立つ「処世術」のベストセラーを書いていた。「人から好かれるにはどうすればいいのか」という人間関係の悩みから「いかに生きるべきか」という人生の根本問題まで、日本を代表する教育者にして国際人が平易な言葉で答える」本だそうです。

 ちなみにこの本は1912年、すなわち「1911~1912年、日米交換教授の制度創設により、アメリカで日本理解の講義を行うため、渡米」(Wikipedia)した頃の出版のようです。「人に好かれ、仕事がうまくいき、夢がかなう! 「いい人生」を送れる人とは、生き方の王道を着実に歩める人だ。自分の生き方に絶対の自信がつき、生きることの限りない喜びが満ちてくる新渡戸流「人生論」の決定版!」というキャッチコピーがついています(同じくアマゾンから)。皆さんにもお勧めかもしれません。

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 とここまで話を進めたところで、新渡戸のこうしたライフ・ヒストリーを概観する時、そこにはやはり北海道開拓から植民地行政へと突き進む日本の近代化への情熱の光と影が透けて見えるようです。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...