総合政策学部の名言集No.18:“いつも幸運に恵まれたければ時代とともに自分を変えなければならない”(前編)

2017 1/5 総合政策学部の皆さんへ

 新年を迎える話題にふさわしいかどうか、今回の名言は皆さんご存じのニッコロ・マキャヴェッリ渾身の大作『ディスコルシ』から、第3巻9節のタイトル、「いつも幸運に恵まれたければ時代とともに自分を変えなければならない」です(『ちくま学芸文庫』版では519頁)。

 マキャヴェッリは本節で「人の運不運は時代に合わせて行動を吟味するか否かにかかっている」と指摘した上で、「誤りを犯すことも少なく、前途は洋洋たる幸運にいろどられている人々は、何度も述べてきたように、時代の性格を敏感に感じ取り、いつも自然が命ずるままに事を運んでいくものである」と断言します(ここで“自然”と訳されていますが、“環境”という言葉の方がよりふさわしいかもしれません)。

 この言葉を耳にすると、何年か前に関学の宮原明現理事長からお聞きした京都の村田製作所村田さんの言葉を思い出します。それは、村田さんがある席で、宮原さんに「京都の老舗は何も変わっていない、と思ってらっしゃるでしょう!」と切り出し、「とんでもない、京都の老舗は絶えず変わっているんでっせ!」、「変わっているからこそ、老舗として生き残ってこられたんでっせ!」とたたみかけたとのこと。時代(あるいは環境)とともに、自分を変えることができる者だけが生き残る。まさに、ダーウィンの進化論にも通じる至言です。

ということで、これが今回のマクラです。

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 それでは、マキャヴェッリは「時代とともに自分を変える」例として、ティトウス・リウィウスの『ローマ史』から誰をとりあげたか?

 それはクィントゥス・ファビウス・マクシムス( 紀元前275~203年)です。第二次ポエニ戦争においてカルタゴ軍を率いる(ローマ人にとっては悪鬼のごとき)ハンニバルに対して、執政官・独裁官として立ち向かい、「勝てないけれども、決して負けない」持久戦略で相手を苦しめる人物で、「ローマの盾」と称されます。

 この持久戦略ですが、(自らをアレクサンドロス大王、“ピュロスの勝利”のエピロス王ピュロスに次ぐ戦術の名手と自負する)ハンニバルに激突しても勝ち目がないと悟ったファビウスは故地から遠く離れているカルタゴ軍の兵站をついて消耗させ(消耗戦)、ついでカルタゴ軍の予想進出地を焦土化します(焦土戦術)。そして、カルタゴ軍にずっとつきまといながら、決戦を避け、相手の消耗を待つという近代的戦略をとります(なお、一回々々の勝利を求める戦術ではなく、戦争の趨勢を決定させる戦略であることに注意して下さいね)。

 この故事から、やがて持久戦略はファビアン戦略とも呼ばれるようになり、保守派として暴力革命を否定しながら社会改良をめざす運動をフェビアニズムと呼ぶことになります。

というのは、しかし、いわば後世の後知恵、ポエニ戦争当時のファビウスのあだ名は“クンクタートル ”、「のろま」あるいは「ぐず」の類で、彼の「勝てない」持久戦略は大衆にはまったく人気があがらず、かつ、最終的勝利も得られないまま、ファビウスは任期を終えます。もちろん、彼の任期が切れたことにもっとも安堵したのはほかならない当の相手のハンニバルでした。

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 そして、紀元前216年、執政官に選ばれたガイウス・テレンティウス・ウァロは大衆の支持をベースに(こうした政治家が欧米では今はやりのようですね)、主戦論をふりかざし、カンナエでハンニバルと正面対決を決断します。

 この日のために満を持したローマ軍は重装歩兵5万5千、軽装歩兵8~9千、騎兵6千、実に計7万人を準備、さらに予備兵力1万が背後に控えます(もっとも、この予備勢力は戦いにまったく寄与せず、虚しく捕虜になります)。対するハンニバルは、故国カルタゴを離れてすでに数十年、異郷の地でローマ軍と激戦を繰り返し、そのたびにたたき伏せてきたとは言いながら、支援も補給もままなりません。このため、カルタゴ軍は計5万( 重装歩兵3万2千、軽装歩兵8千、騎兵1万)に過ぎません。ウァロはこの優勢をかって、少数のカルタゴ軍を包囲・殲滅しようとします。

 しかし、ローマ軍はハンニバルの罠にまんまとはまり、少数のはずのカルタゴ軍に包囲されて惨敗、6万人が死傷、1万人が捕虜となります。カルタゴ軍の鉄の罠から脱出できたのは1万にとどまります(カルタゴ軍の死傷者は約6千人)。これが2000年後のドイツ軍のシュリーフェン・プラン奉天会戦にまで影響を与えたとする、カンナエの戦いの結末です。

 この敗北を機に、大衆もまた元老院の貴族もファビウスの慧眼に気付き、「クンクタトルは「のろま、ぐず」といった蔑称から「細心、周到」といった敬称へと意味を変えた」(Wikipedia)。このことは、古来、カンナエの戦いを軍事教本にとりあげてきた欧米社会で衆知のことですが、マキャヴェッリの考察はさらにその奥に進んでいきます。それは後編にまわしましょう(この項、to be continued)

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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