人びとを隔てるもの:トランプ氏の“壁”、そして“ハドリアヌスの長城”、あるいは“進撃の巨人”

2017 2/12 総合政策学部の皆さんへ

 皆さんは“壁”と聞くと何を思い起こしますか? 今をときまくトランプ氏の“壁”か? それとも、古代ローマでもっとも不可思議で、かつ近代的な人物であったという皇帝ハドリアヌスの“壁”か? あるいは、映画『進撃の巨人』で主人公たちを取り巻いている壁か?

 すでに“国家の成り立ち、あるいは“地域”と“国家”の関係:連合王国の場合#1”で紹介済みですが、ハドリアヌスがイングランド北部に築いた長城は17世紀頃まで二つの地域を隔てつづけ、イングランドとスコットランドの国境として半ば固定化してしまいます。

 それゆえ、トランプ氏の“壁”も『進撃の巨人』のごとき巨壁と化して、アメリカ合衆国とメキシコを永遠に隔てるかもしれません?! もし壁を“不法”に越えようとする“やから”があらわれれば、誰かに似た巨人がぬっと顔を出して恫喝するかもしれません。

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 その一方で、“壁”を作って侵入を防ごうとする者は、いつの間にか自らが作った壁の中こそ閉じ込められる。そして、壁の中こそが悲惨な状態になって、逆に“壁”を越えて外に逃げ出すようになってしまう!

 実は、これが帝政末期のローマの姿です。イタリアの歴史家モンタネッリは名著『ローマの歴史』で、ディオクレティアヌス帝の治世下、「ローマ史始まって以来、初めて、「国境(ミリテス)」を越えて帝国から逃亡するローマ市民が現れたのはこの頃である。「国境」と言えば現在のベルリンの壁のようなものだが、これを越えて「蛮族」の間に安住の地を求める「難民」が出現したのだ。かつては「蛮族」がローマ帝国に安住を求め、再考の財産としての「市民権」を求めて流れ込んできたものだ。今や逆流が生じた。これぞ帝国滅亡の予兆である」と記します。

 つまり、(長い歴史をひもとけば)トランプ氏の“壁”もいつ“逆転”するかわからない。自らを守ろうと“壁”を作る者は、実は、自らが“壁”にとらわれてしまう存在に過ぎないかもしれない! 難民を嫌うアメリカ人が自ら難民になってしまう未来。そう考えれば『進撃の巨人』のモチーフも、またトランプ氏とその支持者たちの心根も、さらにさらに陰影が増してくるというものです。

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 それでも、ほぼ500年紆余曲折ありながら存続できたローマ帝国。創始者カエサルも、後継者でありパックス・ロマーナを実現したアウグストゥスも、そしてここが限界であると“壁”=“ボーダー”を築いた賢人ハドリアヌスも“大した奴だ”と感嘆すべきですが、トランプ氏は彼らに倣えるのか?

 それとも(いまや大方の心に芽生えた疑いのように)、現代演劇の始祖の一人アルフレッド・ジャリが19世紀末に創造したユビュ王現代のユビュ王として残るのか、これは見物でしょう。

 ちなみに、アウグストゥスは死のまぎわ、「友人に「私がこの人生の喜劇で自分の役を最後までうまく演じたとは思わないか」と尋ね、「この芝居がお気に召したのなら、どうか拍手喝采を」との喜劇の口上を口にした」(Wikipeida)そうです。

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 アウグストスの台詞を踏まえ、もしユビュ王にも匹敵するキャラとしてアメリカ民衆史に残るとすれば、その最後の言葉はひょっとして、かのポパイの決めぜりふ、“I am what I am and that’s all that I am[オレはオレだから、オレなんだ!]”かもしれません。

 それは言うまでもなく、“進撃の巨人”のモチーフの一つ=自分の周りに壁を張り巡らすことは、自らを壁に閉じ込めることにほかならないという悲劇(あるいは喜劇)そのものを表象しているかもしれないのです。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...