権力者とポピュリズムPart3:“正しいレーガン”vs.“賢いトランプ”

2018 2/4 総合政策学部の皆さんへ

 トランプ政権発足から1年、新聞各紙には定番として激動(?)の日々を振り返る記事が掲載されていますが、皆さんは政策系学部生として何か思うことはありますか? 以前、「権力者とポピュリズムPart1」と「権力者とポピュリズムPart2」では、ルネッサンス初期のローマで活躍(?)したコーラ・ディ・リエンツォを引き合いに出しましたが、今回は第40代大統領ロナルド・レーガン、そう、今や原子力空母の名前にまで採用されたレーガンです(将来、トランプ氏が原子力空母の名前に採用されることがあるでしょうか?)。

 まず、ポイントですが、大統領就任以来、トランプ氏が世界の人びとに“アメリカ政治の本質”について証明してくれたこととして、以下の2点です。

(1)アメリカの大統領は、意外にも、それほど好き勝手にやれるわけではない(上院・下院の大勢を与党共和党で占めながら、自由自在にできない=これこそ、トランプ氏最大の誤算にして[当選したこと自体が最大の誤算、という評もありますが]、プーチン氏との最大の差かもしれません。また、大統領の権限が意外に狭いことこそ、「良心派」のオバマ氏がなかなか政策を進められなかった原因である、と判明するわけです。

(2)そして、もう一点は、やはりトランプ氏はあまり“賢くなさそう”ですが、その“賢くない”ことこそが、今のアメリカにとって救いとなっているかもしれないこと。しかし、これは反面の恐るべき事実を示しています。つまり、“賢いトランプ”が出現し場合、うまくやればアメリカにヒトラーさえ生まれるのではないか! という危惧ですね。

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 さて、1980年のアメリカ大統領選挙では、レーガンは俳優上がりとしてその政治的能力を疑われつつも、国民に「無能な良心派」というイメージを持たれてしまったジミー・カーターを破って当選します。就任直後には、暗殺未遂事件に遭遇しますが、22口径の銃弾を浴びながら、緊急手術にむかう執刀医に「あなた方がみな共和党員だといいんだがねえ」と軽口を叩き(民主党員だった執刀医は「大統領、今日一日われわれはみんな共和党員です」と返します)、見舞いに駆けつけた奥さんには「 Honey, I forgot to duck(避けるのを忘れてたよ)」と拳聖ジャック・デンプシーが敗れた時の名台詞「Honey, I forgot to duck(ダッキングするのを忘れちまったのさ)」を引用します(こう書いていると、レーガンの台詞とトランプ氏のそれのあまりの落差に憮然としてしまいます-この40年でアメリカ文明は確実に劣化、それもトランプ君の“口撃”と真逆に、“WASP”自体の文化が劣化したことが実感されます)。

 結局、「レーガンのこうした機智や茶目っ気は全米を魅了して、史上最大の地滑り的勝利をレーガンにもたらすことに貢献したが、これはこの後8年間の政権を通じて変わることがなかった。政策の失敗やスキャンダルなどでいくらホワイトハウスが叩かれても、レーガンの比較的高い支持率は決して急落することがなかったのも、こうしたレーガンの「憎めない人柄」に拠るところがきわめて大きかった」(Wikipedia)といわれています。

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 そのレーガン政権時、ユーモアとウィットでアメリカ国民に政策を説得するレーガン大統領の姿に、賢人たちは「レーガンが賢く、もっと正しい政策を選び、それを同じようにアメリカ国民に説き聞かせてくれていたら」と嘆き、「今、アメリカでもっとも必要なのは、“正しいレーガン”だ」と言っているという記事を読んだ、うろ覚えの記憶があります。もちろん、そこにはレーガンを周りの“賢いスタッフ”が支える=ライン・スタッフシステムが機能していたがゆえの余裕がまだまだあったように思います。

 そんな視点でレーガン政権を振り返れば、上記暗殺未遂事件の時に、「大統領の承継順位と、大統領が任務遂行不能となった時にどうするかを規定する修正第25条との双方に関してアメリカ合衆国憲法を解釈を誤」るという決定的なイメージ失墜を犯したヘイグ国務長官はさておいて、その後任のシュルツや、主席補佐官から財務長官になったベイカー等に支えられてのレーガン政権でしたが、もちろん、有能なスタッフを任命する、ということ自体がラインのトップの重要な役割だったわけで、レーガンが評価される所以になっています。

 そうした面から比較すると、これまたトランプ君の政権1年目のスタッフ・システムのごたごたは、あきらかに人選したご本人の資質を証明しているかのようです。もちろん、最大の問題はWASPの伝統的理想像からおよそ遠い人物をアメリカ国民が選んだということ、その選択がシステム自体が内包する欠陥に由来すること(それは19世紀前半、すでに賢人トクヴィルによって指摘されていたことかもしれません)。その結果、アメリカ国民以外の人びとにとっては、戦慄すべき時代=いわば「ダモクレスの剣」状態になっている、ということではないでしょうか?

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 さて、それでは、“賢いトランプ”が出現したら、メキシコとの壁を築くため、あるいは大使館をエルサレムに移すため、オバマケアを廃止するため、TPPでアメリカの言い分をごり押しするため、どうするでしょうか?

 たとえば、「高畑ゼミの100冊Part21:“政治家”はもっと“古典”を読むべきでは? ということで『リコルディ』こと『フィレンツェ名門貴族の処世術』のご紹介を」で引用した、マキャベリのお友達にして真のマキャベリスト、16世紀のローマ法王庁のトップ官僚フランチェスコ・グィッチャルディーニが子孫のために書き残した処世訓の言葉『リコルディ(覚書)』での台詞・・・・

権勢ならぶものがなく、また賢君の誉れも比肩するもののなかったアラゴンのフェルデナンド・カトリック王が、なにか新しい仕事をやろうとしたり、あるいは非常に重要な決定を下そうとしたとき、王みずから自分の考えを公にする以前に、宮廷および人民全体が「王はまさにこれこれの事業をしなければならない」と声を大にして熱望するようにし向けていたのに、私は気付いたものである。こうして王の立場が一般に待望され要求されるようになってはじめて、自分の考えを公にしたわけである」(『リコルディC』80節;書籍番号#78 F・グィッツチャルディーニ(永井三明訳)『フィレンツェ名門貴族の処世術』講談社学術文庫版)

 いきなりツイッターで世界の人びとを振り回す某氏との差が歴然ですが、逆に言えば、この手法を巧みにあやつり、大衆には「我らが指導者は、我々を理解し、我々の欲望を実現してくれる救世主なのだ」と信じ込ませる技をそなえた人物が、トランプ君と同様にその座に座り、そして巧みにアメリカ国民を操作したら(それはある時期までのコーラ、ムッソリーニ、そしてヒトラーかもしれません)・・・・。そうした人物がアメリカ大統領の座につける道を切り開いた、という点こそが、劣化したWASP文化の象徴として、トランプ氏の最大(?)の功績となるかもしれません。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...