2018年6月

新入生の方々に向けて、リサーチで重要なこと#1:「半分、青い。」と「工学部ヒラノ教授」を是非ご参考に!

2018 6/22 総合政策学部に入学された皆さんへ

 3月末で職を退いてからブログを停めていましたが、縁あってまた関学に少し関わることになりました。そこで、総政OBとして投稿を再開することにします。ということで、今回は学生の皆さん、とくに新入生の皆さんにとって悩みの種である「リサーチをどう進めるべきか?」、そのヒントをNHKの朝ドラ『半分、青い。』と、ノーベル文学賞受賞者スタインベックの刎頸の友、モントレーはキャナリー・ロウの賢人エド・リケッツ、そして東京工業大学名誉教授今野浩先生の“平野教授シリーズ”第一弾『工学部ヒラノ教授』等から探ってみたいと思います。

 まず、なんと言っても“秋風語録”、関学文学部中退の豊川悦司演じるカリスマ漫画家、秋風羽織から奔流のごとく発せられる言葉の数々。そのお薦めトップはなんといっても、マンガにとって最も大事なものとしてあげた「オリジナリティとリアリティ」です。さらに続けて「リアルを拾うんだ。想像は負ける!」と衝撃が続きます。この二つはリサーチでも根幹! 皆さん、オリジナルなことに取り組んでいますか? オリジナルとは要するに「他人(ひと)がやっていないこと」です。あるいは、こうも言えるでしょう。あなたは「他人(ひと)と違うところを持っていますか?」。この点では、マンガもリサーチも同じです。

 かつて日本人の研究者が研究資金を獲得しようとすれば、「これは世界でもみんなやっていることだから、重要なので、金をくれ」と言わないと、金が下りない、と聞いた事があります。しかし、これはグローバル・スタンダードではない。世界では、「これは世界でもオレだけしかやっていないことだから、重要なので金をくれ」と言わねば通用しない。

 もちろん、ここに大きなハードルがある。世界の誰でもやっていないことが果たして、他の人々にとっても“重要”なことなのか? あなたは証明しなければいけない。つらいですね! しかし、そのつらさを乗り越えてこそ、栄光が訪れる。それがグローバリズムの宿命なのです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 秋風先生は続けて、リアリティに関連して、このように宣言します。「半端に生きるな。創作物は人が試される。その人がどれだけ痛みと向き合ったか。憎しみと向き合ったか。喜びを喜びとして受け止めたか。逃げるな」。これは「“真実”から逃げるな!」ということでしょう。

 すでに「高畑ゼミの100冊Part24:「それどころか真実に憎しみさえ抱いていたのさ!」スタインベック『キャナリー・ロウ』を中心に#1」でご紹介しているエド・リケッツのセリフ、

単純な問題でいともたやすく大間違いをおかすものなんだね。人間関係や財産にまつわるあらゆる問題で真実を見つけ出すためにこそ、法体系があるんだと思い込んでいたよ。いや、そんな印象を受けていただけかもしれないなあ

ある事実を忘れていた、というより考えてみたこともなかったんだ。原告側も被告側もどっちも勝ちたいんだという当たり前のことをね。そのために本来の目的はどっかに行っちゃって、都合のいい部分だけをことさらに強調するから問題の客観的事実は影も形もなくなる。火事の一件を考えてみればよくわかるよ

 「どっち側も勝ちたい一心で真実にはまったく興味がない、それどころか、真実に憎しみさえだいていたのさ

 みんな、“真実”を見たくない。もちろん、政治家も、企業家も、外交官も、そして一般民衆も、多くの人は“真実”など興味がなく、ひたすら自分が信じたいことだけを信じ、自分が見たい物だけを見る(おまけに、メディアの多様化で、みんな自分の見たいメデイアしか見なくても済む!)。そうした時代こそ、まさに現代なのかもしれません。

 ということで、ここでも皆さんに問いかけがある。すなわち、皆さん、自分自身は見たくもないはずの“真実”を見つめることはできますか? それではリアリティなど夢のまた夢。愚者の甘い楽園にいつまでも浸っていては、リサーチができるはずはありません。かつて、一代のモラリスト、ラ・ロシュフコー公爵は箴言集で喝破します、「太陽も死もじっと見つめることはできない」(箴言集26、岩波文庫版より)。太陽も、死も見つめられる人間こそが、真のイノベーションを成し遂げるのです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 最後に、アイデアの盗用について。『半分、青い。』第66話は、マンガのアイデアの貸し借り/パクリの発覚で、主要登場人物の一人が退場しますが、このあたりも“リサーチ”では微妙なところです。オリジナリティが何より大切だとすれば、アイデアをぱくることなど、許されるはずもありません。

 この点について、ヒラノ教授が紹介するスタンフォード大学OR学科主任リーバーマン教授(鳩山由紀夫元総理の指導教員)が、博士資格試験に合格して、これから博士論文に取りかかろうという学生(ヒラノ教授も含まれているわけですが)相手に行った“衝撃的”訓示をご紹介するのがよいでしょう。

合格おめでとう。(略)あからかじめ一つ注意しておこう。ここにいる諸君は互いに競争相手だから、個人的にアイデアを漏らしてはいけない。盗まれてから、それは自分のアイデアだと言っても襲い。私はアイデアの盗用をめぐる不幸なケースを沢山見てきたが、盗まれた側がそれを立証できたケースはほとんどない。私はこの学科で“盗んだ・盗まれた”といった事件が起こらないことを願っている

 ことほど左様に、オリジナリティを標榜すれば、それをめぐっての人間関係も複雑なものになっていく、そのあたりは『ヒラノ教授』と『半分、青い。』が共通する世界かもしれません。  to be continued・・・・に

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...