新入生の皆さんへ:「総合政策」を学ぶための気軽な課題図書 Part1:いかに生きるべきか?

2018 7/8 総合政策学部の皆さんへ、とくに新入生の皆さんへ

 『基礎演習ハンドブック』初版から、『改訂版』では削除された第6章「「総合政策」を学ぶための気軽な課題図書」の復刻シリーズです。この章は先生方からみなさんへ、「教養=生きる力」を身に付けるのにふさわしい本をご紹介して頂いたものです。

 それでは、まず、渡部律子先生がお書きになった「生きるとはどういうことなのか?」から始めましょう。

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 「生きる」とは? 辛くてどうしたらいいか分からない、自分の理解を超えるできごとに出会ってしまった、知識や経験では対処が困難だ、そんな時、以下の書物がいろんなヒントを与えてくれると思います。

 まず、田辺聖子をとりあげましょう。少女小説作家としてデビュー後、「中間小説」と呼ばれる読みやすい本で、特に女性に人気を博している作家です。その一方で、古典を現代人にわかりやすく解説・紹介した大きな功績があります。例えば、『新源氏物語』では、(現在のように)女性が一人で強く生きていく姿や高齢者がおしゃれに元気に生きていく姿をクローズアップして描くなど、先見の明がある作家です。田辺さんご自身の生き方にも学ぶところが多く、自伝的小説『楽天少女通ります』には、封建的な社会で女性がどのように生きていたか? 家族はどんな機能を果たしていたか? 上手に描写しています。

 次は向田邦子で、1981年に突然の飛行機事故で亡くなった後も、数々の作品が映像化され、語り継がれるほど、表現力に優れていた書き手です。とくに、戦前の家族像と不器用な父親像を表現した『父の詫び状』、微妙な男女の関係を描く『あ・うん』、愛や嫉妬という複雑な感情を表現した『阿修羅のごとく』では、日常の細かな、かつ正確な描写が登場人物の感情を表現して、非言語コミュニケーションがどんな効果をもつのかよくわかります。エッセイの書き方だけでなく、「昭和」という時代を学ぶのにも適した作品をいくつも残しています。

  • 注1)田辺聖子:大阪生まれの小説家(1928~)。1964年に『感傷旅行』で芥川賞受賞。小説やエッセイ多数。
  • 注2)向田邦子:東京都出身の脚本家、エッセイスト、小説家(1929~1981)。1980年直木賞を受賞、1981年台湾で航空事故に遭い死亡。
  • 注3)非言語コミュニケーション: ノン・バーバル・コミュニケーションとも言います。言葉以外のコミュニケーションの総称です。表情、身振り、距離、髪型・服装・装飾品・化粧・香水等、メッセージ性をおびるものはすべて含まれるとも言えます。

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 時代を学ぶと言えば、芹沢光治良の大作『人間の運命』では、読者が全三巻における主人公の成長を追体験できます。著者の自伝的要素をも含む明治・大正・昭和の三時代にまたがって、生きる意味、差別を深く考えさせてくれます。さらに、「両親の生き方を子どもがどのような目で捉えるのか?」、「貧困がどのような影響を子どもに与えるのか?」などを課題として突きつけます。

 遠藤周作も感慨深い作品を残した作家です。『狐狸庵閑話』等の軽いエッセイ集で人気を博しましたが、純文学の『沈黙』では江戸時代のキリスト教徒弾圧をテーマに、人間の強さと弱さ、宗教の力等を扱い、高い評価を受けています。

 歴史小説では池波正太郎の代表作『鬼平犯科帳』はドラマでもよく知られています。このシリーズは江戸文化に興味がある人にお勧めです。食通としても有名で、食文化に興味のある人は『食卓の情景』、『剣客商売』はいかがでしょうか?

  • 注4)芹沢光治良:静岡県出身の小説家(1896~1993)。戦前に農商務省を辞職、フランスに留学。代表作に、ノーベル文学賞候補にもなった『巴里に死す』や『人間の運命』等があります。
  • 注5)遠藤周作:東京都出身の小説家(1923~1996)。1995年『白い人』で芥川賞受賞。ユーモア小説と同時に、カトリック信仰をベースにした作品を執筆。
  • 注6)池波正太郎:東京都出身の劇作家・時代小説家(1923~1990)。1960年『錯乱』で直木賞受賞。食通・映画評論家としても有名。

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 少し話題を変えて、A・ピーズ&B・ピーズ『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く』は、日本だけでも200万部を売り上げたベストセラーです。女性と男性の思考や行動パターンの違いを、3年間かけて専門家や専門書から取材した本です。「男性は××である」、「女性は○○である」等のステレオタイプで偏った見方は危険ですが、そんな危険性をわきまえておけば、男女の基本的な違いを理解するのに役立ちます。また、同じような男女差を言語学的に分析した本に『You Just Don’t Understand: Women and Men in Conversation』(Deborah Tannen著)があります。男女の会話スタイルを分析して、それぞれ強調する点がどのように違うか論じています。英語にチャレンジしてみたい人はぜひお読み下さい。

 次に、病気や健康について。N・カズンズの『笑いと治癒力』は著者自身の体験記です。原題は翻訳とはかなり違い、『Anatomy of an Illness as Perceived by The Patient: Reflections on Healing and Regeneration』といいます。ニューヨークイブニングポスト編集長時代に膠原病が発症した時に経験した医療システムの問題点と、病気の回復に有効な要素としての「ユーモア・笑い」の効用をいち早く指摘しました。最近では笑いの効用が知られてきましたが、そのルーツと言っても過言ではなく、神経生理心理学(neurophysio psychology)と呼ばれる新しい研究領域になりました。彼のもう一つの作品『ヘッド・ファースト』は、UCLAの医学部に移ってから、心筋梗塞を伴う発作に見舞われて、患者が病気の症状コントロールにどれだけの力を発揮できるかについて書いた本です。

 最後に、実存主義心理学者のR・メイは『生きる勇気』で、「勇気は決して特殊なものではなく、日々の生活で様々な選択、決断、コミットメントをすることにある」と主張します。一見、難しくてとっつきにくい本のように思われるかもしれませんが、多くの学びが得られる本です。そのほか、同じ著者の『失われし自己を求めて』も読んで欲しいと思います。

  • 注7)ノーマン・カズンズ(Norman Cousins):アメリカのジャーナリスト・作家(1915~1990)。被爆者への支援でも知られています。
  • 注8)膠原病(こうげんびょう):慢性的に発熱・倦怠感・関節痛等を示す症候群。自己免疫疾患の可能性が考えられているが、完全には解明されていない。

(to be continued)

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...