新入生の皆さんへ:「総合政策」を学ぶための気軽な課題図書 Part2:“経済”を学ぶには?

2018 7/21 総合政策学部の皆さんへ、とくに新入生の皆さんへ

 『基礎演習ハンドブック』初版から第6章 「総合政策」を学ぶための気軽な課題図書の復刻シリーズ、以下は“経済”について、主に亀田啓悟先生がお書きになった「経済」についてのご紹介です。

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 生きた経済を学ぶのに、「経済小説」を読むことも一興です。2007年に亡くなった城山三郎はこの分野の先駆者ですが、『男子の本懐』は昭和恐慌以後の経済政策、特に金本位制への回帰を目指す井上準之助と浜口雄幸の物語で、「政策とは何か?」を考えさせられる政治経済小説です。第二次大戦に向かっていく日本の空気もよく描かれています。ただし、経済の基礎知識を知らないと、この作品の醍醐味が伝わらない恐れもあるかもしれません。

 また、『落日燃ゆ』は第二次大戦後の東京裁判で、A級戦犯のうち唯一人文官で処刑された広田弘毅の話です。戦争に反対しながら、文官の誰かは責任を取らねばならないという理由で自ら死を選んだ広田ですが、戦勝国・敗戦国という概念について再考させられた記憶があります。また靖国問題等を考える上でも、一読の価値があると思います。

  • 註1:城山三郎:名古屋出身の小説家(1927~2007)。一時期大学で経済学の教員も勤めましたが、小説家に専念。経済小説ならびに伝記小説を得意としていました。
  • 註2:広田弘毅:外交官・政治家(1878~1948)。戦前総理大臣を務めるが、東京裁判でA級戦犯として有罪、処刑されました。

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 次は、高杉良の『小説日本興業銀行』です。敗戦後の復興金融金庫の時代から高度経済成長までの日本経済を、「財界の鞍馬天狗」こと中山素平を主人公に、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)の視点からみた経済小説です。

 復金インフレの混乱から日本経済が立ち直り、所得倍増を達成する頃までが描かれています。海運再編(1962)、昭和四〇年不況と日銀特融(1965)、自動車メーカーの日産とプリンスの合併(1966)、新日鉄の誕生(1970)等、戦後の産業政策を勉強するためには、まず、この小説を読むほうが早いかもしれません。

  • 註3:高杉良:東京出身の小説家(1939~)。業界紙編集長から参加に転じ、ビジネスマン小説のジャンルを開拓。
  • 註4:中山素平:銀行家・財界人(1906~2005)。日本興業銀行頭取や経済同友会代表幹事を歴任。
  • 註5:復金インフレ:1947年頃、全額政府出資の復興金融金庫が、重工業に資金と資材を重点的に投入〈傾斜生産方式〉しました。この際、財源を日本銀行直接引き受けの債券発行に頼ったため、通貨の増発を招き、インフレーションが生じました。
  • 註6:所得倍増:1960年に池田勇人内閣の下で策定された所得倍増計画では、10年間に国民総生産を26兆円に倍増させることを目標に掲げ、その後の経済の驚異的成長をもたらしました。

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 ついで、NHKスペシャル・ワーキングプア取材班『ワーキングプア』を推薦します。この問題をおそらく最初に取り上げた話題作です。職を持ちながら生活保護水準以下の所得しかない、ワーキングプアの実態がリアルに描かれています。

ただこの本だけを読むと、「構造改革は格差を生んだ→構造改革は悪だ」という短絡的な意見にとびついてしまう怖れもあります。

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 一方、ビジネス・リサーチについて、実践例を教えてくれるのはF・フォーサイス作の1970年代のベストセラー小説『戦争の犬たち』かもしれません。

 得体も知れない依頼主から、アフリカの小国でのクーデターを持ちかけられた傭兵あがりの主人公、キャット・シャノンが現地に乗り込み、小なりとは言え、一国の転覆を謀るべく、種々のリサーチをしながら綿密に計画をねりあげていく様は、(その後の計画実行時の微に入り、細をうがつ描写でも)まさにビジネスパーソンの鏡とでも言うべきでしょう。

  • 註7:F・フォーサイス(Frederick Forsyth):イギリス生れの作家(1938~)。主な作品に『ジャッカルの日』、『オデッサファイル』、『悪魔の選択』。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...