新入生へ、リサーチで重要なこと#3:パーカー・パイン氏に「統計」を学ぶ、あるいは日本人は誰に殺されるのか?

2018 8/22 総合政策学部の皆さんへ

 キャンパスは今日から事務室が夏季休暇明けですが、以前、「統計学の奨めPart3:“賭博”と“確率論”+高畑ゼミの100冊番外編」でご紹介した、アガサ・クリスティが想像した数々のキャラの中でも、たぶん日本人に一番しられていない方、パーカー・パイン氏をご紹介しましょう。ほら、ロンドンの朝刊一面の片隅に、個人広告「あなたは幸せ? でないのならパーカー・パイン氏に相談を。リッチモンド街17 (Are you happy? If not consult Mr Parker Pyne, 17 Richmond Street」(乾進一郎訳『パーカー・パイン登場ハヤカワ・ミステリ文庫版)と掲載するパーカー・パイン氏です。この方の決めぜりふが「(あなたのお悩みを解決するのに役立つものこそ)統計です」。

 さて、皆さんは入学後、やたらに“統計”に悩まされているかもしれないからです。とは言え、統計は本来は「面白い」学問です! そして、これからグローバリズム時代、統計はビジネスや政策の必須項目として、教養(リベラル・アーツ)の一つとも言える存在です。ちなみに、中世ヨーロッパで為政者が身に付けるべき教養=リベラル・アーツは3学(文法学・修辞学・論理学)、4科(算術、幾何、天文学、音楽)です。昔から、“数学”ができなければ教養人ではない! ということをまず自覚しましょう。

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 さて、パイン氏は上記個人広告にひかれて訪れる客の説明を聞くと、おもむろに「あなたの問題はこれですか?」と指摘します。「一体どうしてそんなことがあなたにわかるのですか?」と戸惑う客に、「わたしの仕事は知るということなんですよ。なにしろ、私の人生の35年間を私はある官庁で統計収集の仕事をしておったんですから。退職した今、私は思いついたんですが、身についた経験を新しい形で使ってやろうと。それはまことに簡単です。不幸は5大群に分類できます・・・・それ以上はない、絶対に。ひとたび病根がわかりさえすれば、治療は不可能ではありません

 医学でも、生物学でも、経済・経営学でも同様です。問題を「知る」→「収集する」→「分類する」→「体系化する」→「個々のカテゴリーについて、その基本原因を探る」→「対策を考える」→「処置をほどこす」。その流れにのっとり、パイン氏は続けます「私は医師の役を務めます。医師はまず患者の悪いところを診断して、それから手当の指導忠告へと進みます。中にはどんな手当も役に立たないような病状もあります。そのような場合には、私には何もできないと率直に申し上げます

 短篇『不満軍人の事件』の中で、パイン氏は断言します「私ははっきり申しますが、いわゆる英帝国建設者の退役した人たちの96%が、不幸せなんですよ。そういう人たちは、活気ある生活、責任一杯の生活、危険があるかもしれない生活を、いったい何と引き換えにしたか? 狭められた収入、うっとうしい機構、そして全体としては陸に上がった魚のような感じですね」「あなたのいっていることはみんな本当だ

 パイン氏のセリフを、(英帝国建設者たちに抑圧された)非欧米世界の先住民の方々が聞いたら、どう感じるのか? という点は、この際とりあえず置いておきましょう。皆さんに感じ取っていただきたいのは、相手を分析・説得する時に、“統計”がまたとない“道具”になるということだけです。

 そして、パイン氏は依頼を躊躇う顧客について、スタッフにつぶやきます。「誰でもみんな、自分の事情は他にないものぐらいにおもっとるんだから、おもしろいよ」。そう、統計を使えば、みんなある程度“似てくる”。 こうして「私のケースは他と違う」という思い込みは厳しくも否定され、パイン氏によって「あなたのケースはここに分類され、このカテゴリーにはこんな解決法があるかもしれません」という提案をいただくことになるのです。

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 ところで、パイン氏の主張、「不幸は5大群に分類」とか「英帝国建設者の退役した人たちの96%が、不幸せ」が正しい指摘かどうかは、この際、別の問題です。こうした数値は、実際にはきちんと調査=データ収集・分類・体系化をしなければいけませんから。

 と言っても、統計数値を実際に自分で「調査」するとなると、個人ではなかなか難しい。学生さんではさらに至難の業かもしれません。いきおい、すでに公表されているきちんとした統計データを引用するのが一番です。もっとも、最近は様々な統計がWebでアクセスできる。ただし、信頼できる統計となると限られているので、政府の統計か、国連統計等を使って下さい。

 ということで、問題です。「日本における殺人事件において、被害者と被疑者はどんな関係にあることが多いのか、ぱっと答えられますか?そのためには犯罪統計というものがある。皆さんもすぐにアクセスできます。警察庁HPの犯罪統計から「平成28年の犯罪」(https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/h28/h28hanzaitoukei.htm)の付表「56 罪種別 被疑者と被害者との関係別 検挙件数」 (H28_056.xls)。

 これによると「殺人」の項目は、殺人、嬰児殺、殺人予備、自殺関与の4種類に細分されますが、殺人予備は実際の殺人にいきません。これに強盗殺人を加えると(統計上、強盗殺人は「強盗罪」に属していて、「殺人」とまた別のカテゴリーなのです)、合計805件(殺人757件、嬰児殺13件、強盗殺人17件、自殺関与18件)となります。

 この805件のうち、被疑者と被害者が配偶者及び1親等(養子関係も含む)内のケースは373件(46.3%)、これに兄弟・親族を含むと435件(54.0%)、さらに知人・友人と職場関係者を足すと648件(80.5%)、つまり日本人の殺人被害者の8割は家族や友人、知り合いに殺されていることになります。もちろん、殺人と強盗殺人とでは多少傾向が異なり、殺人の80.2%が知り合いなのに対して、強盗殺人は64.7%に低下しますが、「強盗殺人でも、まったくの無関係者は少ない」ことがわかります。

 ちなみに、嬰児殺もあわせると実子・養子・継子を殺した例が103件(12.8%)、逆に実父母・養父母・継父母を殺した例が113件(14.0%)です。そして、配偶者間の殺人が157件(19.5%)となります。なお、配偶者間の殺人では、女性が殺されたのが86件で、男性が殺されたケースが残り71件とすると、被害者の男女比は1対1.21となり、女性(妻)が殺されることがやや多いということになるかもしれません。

 なお、こうした傾向は平成25年でも平成27年でもほとんど変わらないようです。パーカー・パインに倣って「それが統計です!」と宣言したあとで、この“事実”からあなたは何を提起できるのか?(レポートでは、事実の指摘よりも、それで何が主張できるか、が重要) そのあたりをぜひ考えてみてください。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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