2018年11月

あなたはどんな立場を求めて就活しますか? プレイヤー、コーチ、マネージャー?再訪

2018 11/25 総合政策学部の皆さんへ

 以前、「就職活動についてPart1:求職の際のミスマッチ、あるいは宮本武蔵とダ・ヴィンチの憂愁」で取り上げた話題ですが、もう一度取り上げてみたいと思います。このブログで紹介したのは、はるか昔に読んだ小説ともエッセイともつかぬもので、諸国放浪中の宮本武蔵徳川家康の九男、尾張藩徳川義直の面前で試合をした際のエピソードで、実は宮本武蔵の就職活動の一環でもあるという点がミソです。殿様の御前試合で見事勝てば、尾張藩に仕官できるかもしれない。もちろん、武蔵は見事勝つのですが、義直は家臣たちに言います。

見た! 強い! だが、教えられぬ

 武蔵の(プレイヤーとしての)し合いぶりに、義直は武蔵の技は個人技であり、かつ、彼自身の身体的ベースに支えられる部分が多く、したがって他人に教えるのは容易的能力に依拠するものであり、他人を教えるコーチとしては期待できない、と結論したのです。

 なおかつ、武蔵本人が希望するのはプレイヤーでも、コーチでもなく、“侍大将”=つまり、指揮官(監督=マネージャー)なのです。しかし、指揮官は個人として、とくに優れた戦闘能力を持つ必要は必ずしもない、というのが義直の文脈になります。事実、この時の武蔵の就活はうまくいかず、彼は結局一生、公的な職には就けませんでした。彼が生涯最後の安定した日々を送るのは、もはやプレイヤーとしての実力を失い、いわばレジェンドとして、寛永17年(1640年)熊本藩主細川忠利から客分として、7人扶持18石の合力米300石が支給され、鷹狩りも許されるなど客分として破格の待遇で迎えられてからです(Wikipedia)。

 こうしたレジェンドとして迎えられる者への最高の言葉はたぶん、ミラノ公に招かれたルネサンス期のイタリアの詩人ペトラルカが「どんな御用を務めたらよいか」と尋ねたときの、(名君で、好男子で、色豪であったという)ジョバンニ・ヴィスコンティの台詞「ただここにいてくださるだけでよろしい。それが私と私の両国の名誉になりますから」でしょう(モンタネッリ・ジェルヴァーゾ『ルネサンスの歴史上』[藤沢道郎訳])。

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 これは就活でも同じでしょう。会社が募集に何をもとめているのか? プレイヤーか、コーチか、それともマネージャー(野球の監督は英語ではManagerです)か、さらにその上ですべてを統括するGM=ジェネラル・マネージャーか? もちろん、皆さんにとって数年後に訪れる就活では、新卒採用ということは基本的にまずプレイヤーで勝負してもらう、ということなのでしょう。

 もう何年も前になりますが、学部長だった時に、企業の人事の方々との懇談会というのがありました。そこで何社かの人事関係の方々とお話しする際、「うちの卒業生が、御社に入社した際に、どの部局につきますか?」と尋ねると、異口同音どの会社の方も即座に「それは営業です」とおっしゃいました。それでは、その理由は? と尋ねると、これも異口同音「二つ意味がある。一つは、営業をやることで、自分の会社が何を売っているのか? を自覚すること」。「そしてもう一つの意味は、自分の会社がどんな人たちと取引するのか、を自覚すること」だということでした。その二つを理解した上で、他の仕事にもつくことで、自らの会社のあり方を理解する、ということのようです。

 これはつまり、自社をいったんジェネラルな立場で見てまわってから、本人たちの適性にあわせてプレイヤー、コーチ、マネージャーにわけていくという、日本的雇用システムの一環とも言えるでしょう。

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 例えば、皆さんご存知というか、上ヶ原の学生さんならお世話にならない方はほとんどいないはずの阪急電車、その創設者である小林一三は、明治25年(1892年)、慶應義塾を卒業すると三井銀行に勤務しますが、内心は文学青年崩れ、最初はジャーナリストをめざして都新聞(現東京新聞)を希望しますが、採用されず、やむなく三井銀 行に入ったものの「サラリーマンとしては落第だった。というの も三井銀行入行が決まっても出社せず、ぶらぶらする毎日が続いていたからだ。「 銀行には興味がもてなかった」と自伝には書いている」(杉田望「明治・大正・昭和のベンチャーたち」 第1回「小林一三(いちぞう)――希代の遊び人事業家;http://j-net21.smrj.go.jp/establish/column/20031216.html)。

 しかし、やがて「銀行ではソロバンと帳簿を覚 え、秘書課に勤務し、そこで三野村利助や中上川彦次郎などと出会ったことが事業家 としての小林の目を開かせる」。つまり、銀行支店業務というプレイヤーには満足できなかった彼は、運を天にまかせて「マネージャー」に転進します。それが“箕面有馬電気鉄道”、つまり現在の阪急だったというわけです。

 そこからのご活躍は、このブログでたびたび言及しているので、そちらをご参考にして下さい(「小林一三と阪急文化圏、そして関西学院Part1」、「小林一三と阪急文化圏、そして関西学院Part2:百貨店について」)。いずれにせよ、プレイヤーでおさまりきれなかった小林は電鉄会社の支配人として、宅地開発、百貨店経営、宝塚温泉と歌劇場、そして興業・映画(東宝は東京宝塚劇場の略)、そして政治家(近衛内閣の商工大臣)にまで活動の場を広げます。

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 逆に、偉大なプレイヤーとして活躍し、長年マネージャーを勤めながらも、結局はコーチの方が性に合っている人もいるわけです。例えば、日本のプロ野球で言えば、中西太元西鉄監督がそうかもしれません。プレイヤーとしては“怪童”の名に恥じず、生涯打率307を誇りながら、通算12年の監督生活で勝率は0.48にとどまり、優勝は1度のみでした。

 その一方で、「コーチとしては数多くの強打者を指導しており、吉田義男は「中西さんは教える達人でしたね」と話している。江夏豊は「名監督は数多くいても、名コーチは少ない」が持論だが、その中で「投げるほうの名コーチは権藤博さん、打つほうの名コーチは中西さん」と語っている」(Wikipedia)。このあたりも就活の際に考えていただければと思います。

エコを突き詰めれば:シロアリのカラアゲとサトウキビ・ジュースのセットは?

2018 11/2 総合政策学部の皆さんへ

 1995年に関学に総政が開設された時、“環境政策”がとくに強調されていた記憶が残っています。初代学部長が、日本の環境経済学を伐り開いたパイオニアの一人、故天野明弘先生だったこともあり、また、開設後3年目の1997年には京都議定書で知られる第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)が日本で開催されるなど、環境政策の機運も高まったのですが、その後、学科も増えて、だんだん環境政策の存在が薄くなってきているような塩梅でもあります。

 ということで、今日はちょっと趣向を変え、皆さんがエコを突き詰めれば、というよりも地球の人口爆発によって、地球という限られた資源で過剰な人口を支えるにはどうするか? という話をしてみたいと思います。

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 さて、独立栄養生物(=そのほとんどは光合成をおこなう植物等)ならぬ我々が、植物にどのように寄生することで人口を支えるのか? 一つは、我々=人類が利用できない植物資源を、我々が利用可能なものに変換することではないでしょうか?

 という課題を考えていると、(決して唯一無二の手段である、と強弁するつもりはさらさらないのですが、私がまず考えるのは植物がせっせと生産しながら人を含む霊長類が利用できない食物エネルギー資源=繊維分(セルロース)を、我々が消化可能な栄養物に変えてくれるシロアリさんではないかと思います。

 Wikipediaによれば、「食物は主に枯死した植物で、その主成分はセルロースである」、そして「林や草原における枯木や落葉などの16~60%が、シロアリの身体を通ることで一般の動植物が再利用できるものに変えられ、生態系維持に重要な役割を果たす」。つまり、自然の生態系において、なかなか生分解しない枯木や枯れ葉のセルロースを(腸内微生物の助けを借りて)分解・利用することで、自らが他の生物に食べられ、自然の食物連鎖とエネルギー・フローを促進する、静脈産業としての重要な働き、それを我々人類が利用するのはどうでしょう? ということにほかなりません。

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 妄想を逞しくすれば、例えば遺伝子改変でエビぐらいの大きさのシロアリに品種改良し、繊維分を餌にして増やした後、カラアゲ・フライとして食すのはどうでしょう。というのも、昔、アフリカで調査していた頃には、シロアリの羽化の季節、市場にいけばシロアリを食材として売っていたし、チンパンジーの調査フィールドでも羽化が始まれば、シロアリ塚から飛び立つ羽アリを簡単に捕まえ、それをフライパンで煎ると小エビのような味がしたのを覚えています(ちなみに、チンパンジーも、アカオザルのような“サル”も、ニワトリも、トカゲも、カエルも狂喜乱舞で羽アリ喰いに殺到していました。

 こうすればあまたの廃材も食料資源に化すだけでなく、シロアリの糞は畑を肥やす肥料にもなる!

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 そのシロアリのカラアゲに添える飲物には、サトウキビジュースがベストかもしれません。

 なにしろ、サトウキビの生産性は高い!(最近、ネットなどで目にする某政治家が発した“生産性”ではなく、正真正銘の生態系における生産性のことです)。

 ある資料によれば、近代的農業においてムギの生産性は最高値で1,715kcal/㎡(世界平均で560kcal/㎡)、トウモロコシの最高値が2,000kcal/㎡(同1,030kcal/㎡)、この目の最高値が2,230kacl/㎡(同950kcal/㎡)、ジャガイモが2,650kcal/㎡(同1,250kcal/㎡)なのに対して、サトウキビは最高値6,740kcal/㎡(同1,435/㎡;平均値はテンサイの生産性も含まれる)。サトウキビがエネルギー生産性ではダントツです(もっとも、蛋白質は1%にとどまり、12%の麦、10%のトウモロコシ・米に遅れをとっています;なお、ジャガイモは2%)。もっとも、砂糖にまで精製するとそのためのエネルギーが余分にかかるので、エネルギー的にはサトウキビ・ジュースとして絞りたてで摂取するのが望ましいでしょう。

 サトウキビで足りないタンパク質は、上記シロアリで補えばよい。となると、人口爆発で切羽詰まった場合、とりあえずサトウキビ生産でカロリーを確保した上で、シロアリに木材(あるいはサトウキビの枯れ葉・茎)を餌として与えることでタンパク質・脂質を確保するのも、あながちとんでもないことではないのかもしれません。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...