“善人”はみな弱いのか?:総合政策のための名言集Part 19

2018 12/28 総合政策学部の皆さんへ

 今年もそろそろあと数日になりましたが、今回はすでに「高畑ゼミの100冊Part11:探検記・旅行記・国際関係」でもご紹介している名言について、再び取り上げることにしましょう。19世紀も半ば、故国イギリスから遠く離れたナイル河畔をヘロドトス以来のテーマ、「ナイルの源流はどこか?」を突き止めるべく、遡っていた一組のヨーロッパ人男女に、途中立ち寄ったある民族の“首長”が二人にさとすように伝えます。

人間はたいてい性悪なものだ。強い者が弱い者から搾り取る。“善人”は皆弱い。悪いことをするほど強くないから、善人なのである

 19世紀半ば、奴隷市場で出会って恋におちた奴隷の少女フローレンスを愛したものの、(実際には遊蕩にふけりつつ、きわめて表面的には)道徳的に厳しいビクトリア朝時代でのスキャンダルを恐れてか、故郷イギリスに戻ることもできず、中東をさまようイギリス人男性サミュエル・ホワイト・ベーカーが、一か八かで二人の人生を賭けたナイル源泉への冒険旅行(ハリウッド映画そのものです)。そのさなか、すべての人生を見通したように二人につぶやくスーダン上流の一民族の長(おさ)コモロ(アラン・ムアヘッド( 篠田 一士訳)『白ナイル』より)。このいかにも穏やかなアフリカ人の長のご指摘には、かのマキャヴェリグィチャルディーニロシュフコーら歴代のユマニストモラリストもたじたじとするところです。

 英語版Wikipediaでは、フローレンスについて “A Hungarian-born British explorer. Born in Transylvania (then Kingdom of Hungary), she became an orphan and was sold as a slave to Samuel Baker. Together they went in search of the source of the River Nile and found Lake Albert. They journeyed to Samuel Baker’s home in England where they were married and she became Lady Baker. She later returned to Africa with her husband to try and put down the slave trade.” と記しています。

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 さて、私は人類学と行動生態学が専門ですが、このテーマを多少ひねれば、「人間はなぜ性悪か?」そして、「善人が弱い」とすれば、なぜ、そんな「弱っちい善人がそもそも進化したのか?」という疑問にもとらわれます。皆さんはどう思うでしょう。

 このあたりは、例によってゲーム理論=例えば、タカ派vs.ハト派の登場になるのかもしれません。それではその出発点は? 以下の二つの構図が考えられるかもしれません。
(1)タカ派=そもそもはみんな、“性悪”だった?
(2)ハト派=そもそもはみんな、“弱っち”だった?

 そのあたりから、このゲームをどう考えるか、立場がわかれるでしょう。

 まず、そもそもタカ派(=これはひょっとしたら、チンパンジー?)だったとしてら、いつの時点なのか(=アウストラロピテクスの頃か、ホモ=エレクトスの頃か、さらにはネアンデルタール人の頃か?)、突然変異として「弱っちい」奴が現れる。

 一方、もともとハト派(=こちらはボノボ?)だとしたら、こちらもまた何時の時点なのか、突然変異として「性悪」な奴が現れる、という構図になります。

 それにしても、あなたはどちらをこのどちらの構図をお好みですか? (どちらが正しいか、あるいはどちらも正しくないのか? それはタイムマシーンでもできないと分からないかもしれませんが)。

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 そのあとの段取りは、もう、皆さんお気づきですね。

 たとえば、もともとタカ派だったと仮定すれば、そこに突然あらわれた「ハト派」は、タカ派と異なる“優しさ”がアピールされて、“異性”に好まれる(ここで、オス・メス、男性・女性という特定の性を指定していないことは、気づいて下さいね)。そこで、次第に集団内に“ハト派”が増える。ところが、増える過程で“タカ派”との衝突が増えると、弱っちい“ハト派”は次第に減り出す。

 それでは“タカ派”がこのまま増えるかというと、今度は増えた“タカ派”同士が衝突、命を落とす者もでてくる。そうすると、いつのまにか弱っちくて逃げまくっていたハト派が次第に復活する。

 このように、まるでバロン・ダンスで繰り広げられるバロン(聖獣)ランダ(魔女)のように“性悪”と“善”の「終わりのない闘い」が続いているのかもしれません。もっとも、このあたり、さらに考察を続ける必要がありそうです。

 それでは、良いお正月をお迎え下さい。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...