2019年7月

基礎演習ハンドブック初版コラム再録Part 2:週末には映画を見よう

2019 7/23 総合政策学部の皆さんへ

 『基礎演習ハンドブック』初版本から(改訂版では削除された)コラム「週末には映画を見よう」を再録しましょう。執筆された先生は、すでにご退職されましたが、在校生の皆さんにぜひ映画からいろんなことを学んで欲しいと、熱を込めてお書きです。ぜひ、ご一読ください。
       

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 映画もまた、私たちに様々な智恵や、情報を与えてくれます。最近では、小説や音楽のように、映画も長い歴史を経た“古典”として、教養という性格を帯びてきました。チャップリンや『カサブランカ』、『ローマの休日』、『七人の侍』等の“名作”は映画評論家にまかせ、個人的な好みで「ぜひ皆さんに見てもらいたい」作品を有名、無名取り混ぜて紹介しましょう。レンタルビデオ屋にあるかどうか保証しませんが。

 まず、頭に浮かぶのが『アマデウス』。モーツアルトへの冒涜との意見もありますが、あのような奇矯な人物だったのは周知の事実。モーツアルトと対立したイタリア出身の音楽家サリエリに殺されたという当時の噂(ただし映画と違って毒殺)にもとづくこの作品、音楽好きにはたまりません。オペラ『魔笛』のシーンは、パパゲーノの服装等、初演時を彷彿とさせ、全曲上演したビデオがあったら絶対欲しい。
       

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 ミュージカル映画では『屋根の上のバイオリン弾き』をあげます。ロシアでのユダヤ人迫害の歴史を背景に、主人公テビエの3人の娘がそれぞれ恋人と出会い、結婚するまでを描いています。

 しきたりを無視しても子供の気持ちを大切にしようとする主人公や、恋によって自分の将来の夢が変えられていく娘たちに感情移入しながら、アイザック・スターンのバイオリンに耳を傾けて下さい。なお、親が自分の結婚に口出しそうな場合、その反対を封じ込める究極の名せりふがあります。
       

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 『十二人の怒れる男』が有名な“裁判物”の中から、少し変わった作品を取り上げます。ジョン・フォード監督バッファロー大隊』。被告の無実が証明される過程は似ていますが、最後に意外な事実がわかり、後味がさわやかです。もっとも、人種差別等の暗い場面もはさまり、単純に楽しめる作品ではありません。主題歌も勇壮なマーチですが、なぜか涙が止まらなくなるはずです。

 “SF”ではレイ・ブラッドベリー原作『華氏451度』。読書が許されなくなった未来社会で本を守ろうとする人たちの反逆の物語です。最近、「本を読まなくなった」、「出版業界は終わりだ」などの嘆きが聞かれますが、この映画を見ると力づけられます。本などくだらないと思っている人も見て下さい。考えが変わるかもしれません。なお、この映画を見て本の大事さを感じたら、原作もお読み下さい。
       

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 最後に“アニメ”はビートルズの『イエロー・サブマリン』。この作品のぶっ飛び加減は、その後のアニメに大きな影響を与えているはず。音楽をこよなく憎むブルー・ミーニーズの首領と部下マックスの掛け合いのおもしろさ、ビートルズ・ナンバーにヘンリー・パーセルのトランペット・ボランタリーが何の違和感もなく混じっている所、何度見てもあきません。ところで、劇中歌で「64才になっても僕を愛してくれるかい」と歌った時、自分が実際にそうなることがあると思っていたのでしょうか。ジョン・レノンはともかく、他のメンバーは確か....

基礎演習ハンドブック初版コラム再録Part1:落語を楽しもう 

2019 7/7 総合政策学部の皆さんへ

 本日は七夕ですが、『基礎演習ハンドブック』初版本に掲載され、現在の改訂版では削除されたコラムから、「落語を楽しもう」を再録しましょう。ご執筆された先生は、すでにご退職されましたが、在校生の皆さんにはぜひ落語を楽しむ余裕をもっていただきたい、と愛情を込めての力作です。ぜひ、ご一読ください。

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 このコラムでは「人生の知恵」として“落語”をとりあげましょう。娯楽とは言え、落語は庶民の生活の知恵を教える教育の場でした。例えば、下手なカラオケならぬ義太夫で、店の使用人や店子を辟易させる旦那さんを描いた『寝床』は、独りよがりに陥りやすい我々を笑わせながら、反省を求めます。

 「あの人にあれさえなければいい人なんだがね」と思うことは多々あるでしょう。とくに偉くなると、誰も注意してくれません。横暴を極めている人も、他人は自分を怖がって本当の事を言わないことに、案外気づかないのです。

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 『寝床』は「下手の横好きで自分は巧いと勘違いしている人」を意味する言葉として通用していますが、他にも有名な落語に事欠きません。『百年目』は人を使う立場にある者が部下にどう振る舞うべきか教えてくれます。堅いように見せかけて裏で遊興にふける番頭さんと、その場を偶然見てしまったご主人との対話は「人を使うものはかくあらねばならない」と感心させられます。

 一方、人情話の『芝浜』は能力はあるが気を抜くと酒におぼれる夫と、しっかり者の妻に起きる小事件です。大晦日、その年を振り返りながら聴くことをお薦めします。ところで、『芝浜』は“三題噺”として「酔っぱらい」、「芝浜」、「財布」という題をもらった三遊亭円朝が即興で作った噺と言われています。しかし、話の運びにいささかも矛盾や破綻が無く、考え尽くされたストーリー展開に感心させられます。

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 『たちぎれ』は考え尽くされたストーリー展開で、商家の純情な若旦那と芸妓小糸の恋物語を語ります。せつない恋の悲しい終末に浮かんだ涙が気恥ずかしくなった時、最後の落ちで少し笑わせてくれます。小松左京は短編小説『天神山縁糸苧環(てんじんやまえにしのおだまき)』でこの落語のすばらしさを語っていますが、この小説を読了後、下手な『たちぎれ』を聴いたら、落語家に殺意を感じるかもしれません。その点、要注意。

 そうした設定を最後にひっくり返すのが『千両ミカン』です。「夏の暑い盛りにミカンを探す」、今ならともかく、昔は不可能に近い事でした。「エッ」と驚く落ちで話は急に終わってしまいますが、「ミカンを食べたい」という思いで死にかけている若旦那以外、話の展開に無理がありません。特に、ミカン問屋の人の言葉には、浪速商人の商人哲学というか、心意気というか、風格さえ感じさせます。

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 人によって意見は様々でしょうが、落語の代表と言えば『野ざらし』、関西での『骨つり』は十分その候補たりうるでしょう。ナンセンスですが味がある話です。都築道夫が『なめくじ長屋捕り物さわぎ』シリーズで、そのまま「野ざらし」と題して、原作にある矛盾まで見事に生かした推理小説に仕立てました。また、石の森章太郎が漫画『佐武と市捕物帖』の中で、同じ趣向で描いています。そんな創作意欲をかき立てる落語です

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...