2019年8月

基礎演習ハンドブック初版コラム再録Part3:音楽は「音が苦」ではなく「音を楽しむ」

2019 8/20 総合政策学部の皆さんへ

 『基礎演習ハンドブック』初版本から、改訂版ではなくなったコラム「音楽は「音が苦」ではなく「音を楽しむ」を再録したいと思います。執筆された先生は、すでにご退職されましたが、在校生の皆さんにぜひ音楽の世界からいろいろな想いや知識を得て頂きたいと、熱を込めてお書きです。ぜひ、ご一読ください。
       

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 このコラムは、ある先生から新入生の方々への、楽しい音楽紹介です・・・

 音楽は「知識人の教養」だという強迫観念で、ベートーベンやシューベルトでは“押し”が利かず、リヒャルト・シュトラウスやシェーンベルグ、少しひねってサティ武満徹をといった風潮があります。これでは「音が苦」です。もっと気楽に音楽を話しましょう。

 若い頃は、もちろん恋愛に関した曲を聴くべきです。この世に“失恋”がなければ、歌曲の二、三割は生まれなかったはず。シューベルトの『美しき水車小屋の娘』では『いやな色』で主人公が恋をあきらめて旅立ち、『小川の子守歌』で小川が死んだ男に慰めに歌うところで終わります。『しぼんだ花』は、「もし彼女が私の誠実さに思いをはせることがあったら、すべての花よ咲き出でよ。冬が終わり春が来たのだから」と何度も繰り返し、若者の思いの深さを表現しています。

 もっとも、本当に失恋した時は、これらの曲や『冬の旅』を聴くのは危険かもしれません。心を落ち着かせるにはパッヘルベルの『カノン』が良いでしょう。夜、この曲を聴きながら寝ると気持ちが落ち着き、良い夢を見ます。
       

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 ドボルザークチェロ協奏曲もお薦めです。第1楽章の第2主題は、これほど慰めに満ちたメロディはそうありません。

 また、マーラーの交響曲1番『巨人』は『さすらう若人の歌』という、これも失恋を歌ったメロディが随所に出て、若者の揺れる気持ちを熟練の技のオーケストレーションで表現しています。彼は大規模なオーケストラ曲を書きましたが、楽譜は繊細で、壊れやすいガラス細工のような人ではなかったかと感じさせられます。

 バッハは『クリスマス・オラトリオ』でその楽しさが味わえます。クリスマスにぜひバッハを。第1曲の楽しさは格別です。このオラトリオ全6部には有名な『受難のコラール』が繰り返され、美しくも沈鬱なはずのこの曲が第1曲に匹敵する楽しさを備えた最終曲で出てきます。

 一方、ヘンデルは『メサイア』で決まりです。最近、バロック時代の編成で当時の楽器を使うのがはやりですが、対極にサー・トーマス・ビーチャム版があります。有名な『ハレルヤ・コーラス』の始まりで、あろう事かシンバルとトライアングルが鳴るとんでもない代物ですが、先入観を捨てれば、なかなか楽しい演奏だと思います。
       

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 クラシックには楽しい小曲がいくつもあります。バッハのカンタータを編曲した『主よ人の望みの喜びよ』というピアノ曲は、題名を知らなくても、聴けば「ああ、あれか」という人も多いでしょう。ヘンデルの『見よ勇者は帰る』は優勝のテーマとして知られていますが、ぜひ本来の『ユダス・マカボイス』で聴いて欲しい曲です。『調子の良い鍛冶屋』で知られているクラビーア曲はピアノで良く演奏され、こんなに楽しい曲もそうありません。

 逆に、美しくて悲しい曲ではシューベルトの『楽興の時』第3があります。ただ、楽譜から読みとれる美しさと悲しさを納得させてくれる演奏に、私はまだ出会っていません。

偉大なる凡人:歴代アメリカ大統領への評価から

2019 8/2 総合政策学部の皆さんへ

 Webに「政治学者が評価! ランキングで見る、史上最も素晴らしいアメリカ大統領」という記事があります(https://www.businessinsider.jp/post-185522)。なんでも、(1)2017年12月~2018年1月にアメリカ政治学会のPresidents & Executive Politics部門のメンバー(約200人)を対象にオンライン調査、(2)歴代大統領を100点満点で評価(50点=平均)、平均点をランキング化、(3)回答者の約57%は民主党支持、共和党支持13%、無党派27%、その他3%ということです。

 今どきのWeb記事として「最下位が現職のトランプ大統領」というあたりが“売り”でしょう。しかし、もちろん、今回とりあげるのはそんな“あたり前”のことではありません。このランキングで高評価だった大統領はどんな人たちなのか、という点です。

 44人中、まず上位5位を紹介すると、こちらはある種納得の方々で、1位:エイブラハム・リンカーン、2位:ジョージ・ワシントン、3位:フランクリン・ルーズベルト、4位:セオドア・ルーズベルト、5位:トーマス・ジェファーソンと偉大なる“リーダー”型大統領がならびます。

 カテゴリーとしては、(1)アメリカ建国時、“国民・国家創成”をなしとげながら、その基本的プログラムを模索したワシントンとジェファーソンの二人、(2)国家の分裂の危機に強烈なリーダーシップをとったリンカーン、そして(3)20世紀初頭とその半ばに、新しい国家経営のあり方を模索した両ルーズベルトの3タイプになるかもしれません。いずれも未曽有の国難である独立戦争、南北戦争、第2次世界大戦に対応したわけで、アメリカという国家の節目、節目に“戦争”があったことにも気づかされます。

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 ところで、今回のメイントピックは6~10位、「偉大なリーダーたちにはやや劣るかもしれないが、それなりに支持を集めた方々は誰でしょう?」です。それは6位:ハリー・トルーマン、7位:ドワイト・アイゼンハワー、8位:バラク・オバマ、9位:ロナルド・レーガン、そして10位:リンドン・ジョンソンと続きます。ちなみに、一般大衆から票を集めそうなジョン・F・ケネディは16位、あるいはジャクソン・デモクラシーで民衆的支持をかちとったアンドリュー・ジャクソンは17位にとどまっています。大衆的人気と、政治学者の評価はそれぞれ異なる、ということかもしれません。

 とくに、どうどうの6位を占めたトルーマンは第3位のルーズベルトが1945年4月に休止、わずか82日の副大統領在任後、突然、大統領に昇格したという経緯で、当時、連合国陣営の一端をになっていた旧ソ連の独裁者スターリンは「前任者のフランクリン・ルーズベルトと対極的な、威厳も貫禄もない粗雑な小物が突如として大統領の地位を獲得したことに愕然とし、アメリカへの不信を募らせ」たとのことです(Wikipedia「ハリー・トルーマン」)。思えば、1944年の大統領選挙では、史上第3位のルーズベルト(大統領候補)と第6位のトルーマン(副大統領候補)ということで、あくまでも後知恵に過ぎませんが、史上最強のコンビだったとも言えるかもしれません(とは言え、選挙当時、ルーズベルトもトルーマンもそんなことはまったく夢にも思っていなかったはず)。

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 とはいえ、凡人たるトルーマンですが、いったん大統領の職務についた以上、頑張らざるをえない。Wikipediaによれば、「就任初日の気持ちを自身の日記に「私の肩にアメリカのトップとしての重荷がのし掛かってきた。第一、私は戦争の詳細について聞かされていないし、外交にもまだ自信がない。軍が私をどう見ているのか心配だ」と記していた」とのことです。

 そんな“凡人”が予想だにしていなかった立場に追い込まれて、背一杯の努力で自分の仕事をこなそう、と頑張ることをアメリカ人はそれなりに評価する。きれきれの優れ者が周囲に見当たらない場合には、たとえ才能がやや劣ったとしても、誠実にこなそうとする者を、アメリカ人はそれなりに評価する、ということなのかもしれません。どうやら、今の合衆国ではそうした“余裕”が失われているようにも思えます。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...