2020年1月

「お前の存在が会社の総資産の3%を毀損している」:あるいは「枯れた技術」への接ぎ木の失敗

2020 2/20 総合政策学部の皆さんへ

 昨年年末、12月24日のNews各社は「米航空機大手ボーイングは23日、デニス・ミューレンバーグ最高経営責任者(CEO)の辞任を発表した」(Reuters 2019年12月24日 00:38発信)と報道しました。言うまでもなく新型旅客機B737Maxがインドネシアとエチオピアで2回の重大事故を起こしたため、基本的構造に問題があるとして運航停止を命じられたあとも、なかなか再開が認められていない現状を踏まえて、経営責任をとらされたわけです。

 ところで、現在の資本主義を象徴するかのように、上記の記事には続いて「最高経営責任者の退任を23日朝に発表したボーイング株は約3%上昇した。経営責任の明確化で、主力小型機「737MAX」の運航再開に前進すると受け止められた」とあることです。

 つまり、これはCEOに対する「お前の存在が会社の総資本の3%を毀損していた」という、市場からの評価なのかもしれません(もちろん、このあとさらに乱高下したり、あるいはさらに上昇するなどの可能性もあるでしょう。そのあたりは、そもそも株にまったく手を出したことのない私の守備範囲外です)。

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 ここでとりあえず事故とその後の経過をまとめると、(1)まず、ライオン・エアが運航する737MAX機が、2018年10月29日にジャカルタを離陸後墜落、189人死亡(ライオン・エア610便墜落事故)。ついで(2)エチオピア航空の同じ737MAX機が2019年3月10日にアディスアベバを離陸後に墜落、157人死亡(エチオピア航空302便墜落事故)します。

 ライオン・エアの事故を受けて、2018年11月7日にはアメリカ連邦航空局(FAA)は「飛行機の空中姿勢の制御に必要な「AOAセンサー」から入力される情報に誤りがあった可能性がある」として、運用中の期待に緊急改善通報を出しますが、エチオピア航空の事故が重なり、2019年3月にボーイングの最大の顧客先である中国が運航停止を命じ、これにEUが続き、世界中で737MAXの運用が取りやめになります。たまりかねたのか、トランプ大統領が3月13日に運航停止の大統領令を出します。そして、FAAが安全性確保のため「合同当局技術審査(Joint Authorities Technical Review)」を設置すると発表したのが2019年4月4日。

 そこからすでにほぼ9か月、最初のうちは「2019年内にも飛行再開」という噂も流れながら(例えば、2019年5月24日にはロイターが「「737MAX」について、米連邦航空局(FAA)が6月下旬にも米国での運航再開を認める見通しを示した」と報じましたが、結局はその半年後に至る今でもめどが立たず!)、結局、今日に至るも最終結論に至らず、ボーイング社はその間も生産を続けた結果、大量の在庫が溜まり、かつ航空会社にすでに引き渡した機体は飛ぶことができず、航空会社に膨大な損失をもたらす可能性がある!! その結果、この1月で続けてきた737MAXの生産を停止するところまで追い詰められました。

 ここで経営責任を問われて、ミューレンバーグCOEの首が飛んだ、ということになります。

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 なかなかに複雑な問題のようで、何がポイントなのか? 整理してみましょう。まったく門外漢の私などは口をはさむべきではないですが、Wikipediaの記事を信用すれば、「胴体の基本的な設計は第1世代の737-100/-200の頃から大きく変わって」いないが、「大型化されたLEAPエンジンが採用されたことによって燃費を約14%改善させるが、(略)エンジンの取り付け位置を従来の737NGシリーズよりも若干上方および前方に移動させる必要が」じたため、「ナセルが仰角を取った時に揚力が発生し、機首がピッチアップのモーメントが働き、より高仰角になる」特性があらわれ、これを防ぐため「「操縦特性補助システム」と呼ばれる操縦支援システム」を導入したが、その肝心のシステムが運用中にトラブルを起こした、ということに間違いはなさそうです。

 つまりは、本来システムを全面的改善するなど、機体の再設計が必要であるはずなのに、再設計期間や経費の節約のため、微修正でなんとかなるだろうと送り出した機材が立て続けに事故をおこした、というのがそもそもの経緯と言えそうです(こう書いていると、なんだか悪夢の連鎖、システムのスパイラル的破綻という気がしてきます)。

 次に、近代的資本主義企業として、こうした事故をどうやらある程度予想するかのような指摘がありながら、実際に(予想通りに)事故が起き、かつ、それに適切に対応しなかった点が2点目の間違いということになりそうです。資本主義倫理からすると、どちらの罪が重いのか、というところに興味を覚えないわけではありません。

 ちなみに、先ほど「このあとさらに乱高下したり、あるいはさらに上昇するなどの可能性もあるでしょう。」と書きましたが、ボーイング社の株価を調べてみると、2019年3月1日(=トランプ氏の大統領令がまだ出ていない段階)での株価は440.62US$、8月16日は330.45$、12月23日に337.55$でしたが、1月9日は334.25$で相変わらずパッとしていません(とはいえ、トランプ氏が大統領に就任した2017年1月13日には158.83$だったので、数年前からすれば随分の上昇のようです。このあたりこそトランプ大統領の支持率が下がらない所以かもしれません)。

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 とはいえ、1967年4月9日初飛行(つまり、今から半世紀も前)のB737がその後幾多の改修を経て、10,000機を超える総生産量を誇るにも関わらず、「胴体の基本的な設計は第1世代の737-100/-200の頃から大きく変わっていない」ということは、(1)半世紀前の設計がいかに合理的であったのか、そして(2)「枯れた技術」になっていたのか、を物語っています(枯れた技術については、以前の投稿を参照してください)。

 しかし、せっかくの「枯れた技術」に接ぎ木を施したためにシステム全体を狂わせてしまった、これこそが近代システム工学上で注目すべき事案かもしれません。それでは実際にどうなるのか、FAAはシステムの改修を認めて、ボーイング社は製作・販売を再開するか? 再開しても、航空会社からそっぽを向かれて、結局売れないか? あるいは改修はみとめられず、既存機は廃棄!! せっかく生産した新造機もそのままスクラップ!!などということになるのか? もっとも、運航が再開された後で同様の事故がおこれば、それこそボーイングもFAAも再起不能になるかもしれません。

5月16日の追伸:投稿から3か月、その後のコロナウィルスのパンデミック化で、B737MAXの運命はおろか、ボーイング社の命運まで危うくなってきました。2月末の時点では、まったく予想もしていなかったわけで、不明を恥じる次第です。5月16日(日本時間の)7:22の株価は120.0$で、もはやトランプ大統領就任時点での株価の75.5%に下落しているようです。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...