集まることの意味~ヒトとサルのマイクロ・デモグラフィー2~

2020 5/7 総合政策学部の皆さんへ

 先回の続きです。生き物が動くことと集まることについて、もう一つ気づくことがあります。リンゴは両性花をつける雌雄同体なため、子の分散に性差はあらわれません。しかし、陸上動物は雌雄異体が多く、その場合、分散に性差が生じることがあります。

 例えば、哺乳類では両性とも分散する種もいますが、オスがより遠くへ分散する種が目立ちます。対照的に、メスが分散する種はチンパンジーやリカオン等少数にとどまっているといわれています。

 この結果、“去らぬ性”同士が集まり=集団をつくるパターンが登場します。例えば、ニホンジカでは緩やかな母系的集団程度ですが、ライオンやアフリカゾウは母系で結びついた群れを形成します。そこでは相互認知にもとづき、血縁者がサポートしあいながら、次世代への子孫/遺伝子を多く残すことで包括適応度を上昇させています。これが“血縁選択”で、産仔数を減らしながら少数のコドモを世話するK戦略(=少産少死)が展開します。

 具体例をあげれば、ニホンザル等多くの狭鼻猿類(旧世界ザル)ではオスが出自集団から去る一方で、メスは出自集団にとどまることで、母系的血縁をベースに群れが形成されます。対照的に、メスが分散する傾向にあるチンパンジーは父系的集団となります。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ところで、ニホンザル研究の初期、オスにとって宿命的な“群れ落ち”、すなわち生まれた群れから去る(動く)という現象が理解されるのに時間を要しました。言うまでもなく、彼らの生活史の全体像をおさえていなかったため、ピースの一つとしてうまく嵌め込むことができなかったのです。

 日本の霊長類学をリードした伊谷純一郎は『霊長類の社会構造』(1972)で、霊長類学の黎明期を振り返りながら「これまでの研究の過程において、幾度か当惑すべきとしか表現しようのない幻想に出会ってきた。それは例えば、ニホンザルの孤猿であり、離合集散するチンパンジーのグルーピングであり、一つの集団から別の集団へ移籍するチンパンジーのメスであった」、「とくに初期の研究においては、「離れる」は等閑に付され、(略)集中の社会学に没頭してきたという反省があり得てよい」と述懐しています。集まることばかりに注視したため、そこから動く(離れる)ことの重みに考えが及ばなかったのかもしれません。

 ところで、こうした群れ落ち・移籍には“性”が大きく関わります。ニホンザルのオスもチンパンジーのメスも出自群/集団からの離脱するのは、性的存在になりかかるadolescence(ワカモノ)の時期にあたります。とくにチンパンジーのメスが新たな集団に入る時等などは、性が“パスポート”として機能します。屋久島のニホンザルでもオスは数年ごとに群れを移籍するが、出入りは交尾季前後に集中します。つまり、繁殖相手を求めること自体が移動のきっかけなのです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 それでは、彼ら/我々が動く範囲は限定されているのか、それとも無限に広がっているのでしょうか?

 生き物のなかでも、周期的に長距離移動を繰り返しながら、移動ルートが定まっている例に渡り鳥やサケの廻遊/回帰移動があげられます。彼らが移動するのは季節変化がもたらす食物資源の変動や繁殖によるのですが、そうした移動回路の閉鎖性は、遊動生活を送る狩猟採集民や牧畜民等が絶えず移動しながら、しかし、一定の範囲にとどまる様を連想させます。

 もっとも、ヒトでは農耕等で定住性が強まると、自らの周囲を行動圏や通婚圏、交易圏、領土等で区切ることで“地縁”が生まれました。同時に彼ら/我々の活動は環境を変え、耕地や二次的自然(里山等)が広がります。これが“定住革命”です(西田 1980)。

 とは言え、今度は、木地師漂海民ロマの人たちのように定住民の境界をすり抜ける者もでてきます。定住民自身も一時的に地縁から抜け、一定の(お約束ごとの)ルートを辿りながら、帰還を前提とした巡礼等に旅立ったりします。宮本常一は『忘れられた日本人』(1971)で、「日本の村々をあるいてみると、意外なほどその若い時代に、奔放な旅をした経験をもった者が多い」として、「世間師」という言葉を紹介しています。

 その一方で、二度と戻らぬ、行方も定かならぬ移動の典型がアフリカから新天地に拡散し続けた人類大移動にほかなりません。旧約聖書の「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ」を思いおこしますが(皆さん、旧約聖書もきちんと読みましょうね)、そのきっかけには3つのモデルが想定されているようです。

 (1)引き寄せモデルでは、魅力的な環境・資源に引き寄せられる。対照的に、(2)押し出しモデルでは、環境変化や人口圧等で周密地から弱者が押し出される。最後に、(3)拡散モデルでは、生活場所を求めて動くうちに偶然、新天地にたどり着くことになるのです。ですから、必ずしも強者がぐいぐいと自らの欲望に促されて、新天地を目指すばかりではない、というところで、to be continued…とします。

コメント:0

まだコメントはありません。

コメントを投稿する

トラックバック:0

トラックバックURL
http://kg-sps.jp/blogs/takahata/2020/05/07/13268/trackback/
この記事へのトラックバック

まだトラックバックはありません。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...