ケチャップの歴史2番外編~トマト・ケチャップ出世譚:食について Part20
2020 7/1 総合政策学部の皆さんへ
ケチャップの歴史を手繰っていったら、村井弦斎『食道楽』が青空文庫に入っていることに気づきましたが、これでまた少し遊びそうです。また、青空文庫は学生の皆さんにもお薦めです。
手始めに『食道楽』にトマトが描かれているか調べたところ、『春の巻』では以下の1か所だけです。春ならば、まだトマトの季節に及ばないのかもしれません。
「赤茄子スープは夏ならば生の物、冬ならば鑵詰かんづめの物を四十分間煮てバターを交ぜ、曹達そうだを極く少し入れよく掻廻し別にスープかあるいは牛乳を沸してこの中へ注ぎ込むなり。壜詰びんづめのトマトソースを用ゆれば便利あり」(第30 万年スープ)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうやら夏の巻はまだ入力されていないようなので、冬の巻を見ると、18か所にトマトが登場です。まずは、牛の臓物料理ですが、とくに「牛の脳味噌」は「牛の脳みそのミラノ風カツレツ」ではないでしょうか? 村井もよく調べたものです。また、「顔の皮」では瓶詰のトマトソースが紹介されています。
「牛の脳味噌はコロッケーにもすべし。それには一旦湯煮て細かく切り固き白ソースへ混ぜ塩胡椒を加えて冷まし、それを丸めてメリケン粉をつけ玉子の黄身にてくるみパン粉をまぶして油にて揚げる。これにトマトソースをかけて食すれば一層上等なり」(第288 牛の脳味噌)
「お登和嬢「顔の皮と申して頭の皮も何の皮も皆みんな食べられますが、それを最初塩でよく揉んでヌルヌルを除とってしまってよく洗って、深い鉄鍋の中へ水と一緒に入れて少し塩を加えて人参や玉葱なんぞを入れて強くない火で四時間ばかり湯煮ゆでます。そうすると皮が大層柔くなります。別の鍋でバター一杯をいためてコルンスタッチ一杯をよくいためてスープを五勺に瓶詰のトマトソースを一合加えて塩胡椒で味を付けて今の皮をその中へ入れて一時間ほど煮ますと美味しいシチューが出来ます」妻君「牛の舌はいつでもシチューに致しますが外にお料理がございますか」(第289 牛の臓物)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
このようにトマトソースとして利用するほかは、サラダとしても、またトマトスープも紹介されています。
「今は生のトマトが沢山ありますが大層味のあるものでサラダにしてもマカロニと煮ても美味おいしゅうございますがあれをスープにしても結構です。それは生の赤茄子を二つに割って絞ると種が出てしまいます。それを裏漉しにしておいて別に鍋へバターを溶かしてコルンスタッチをいためてスープを加えて混てその中へ今のトマトを入れて20分間も煮て一度漉して塩胡椒とホンの少しの砂糖とを加えて出します。実には小さく切ったパンのバターで揚げたのを入れると結構です。赤茄子は畠へ作ると沢山出来ますが食べ馴れない人は知らないで珍重しません。食べ馴れると実に美味いものです。赤茄子の中をくり抜いて胡瓜や茄子へ肉を詰めた通りに詰めてテンピで焼いても結構です。何でも最初食べ馴れない物を人に御馳走する時は不味拵えて懲々させるとモーいけません」(第225 赤茄子)
トマトスープは「病人の食物調理法」の一つとしても登場しますが、こちらにはトマトの缶詰が紹介されています。
「第四十四 トマトスープは赤茄子の事ですが生ならば二斤ほどのトマトを一つ一つ二つに割って種や汁を絞り出して水を少しも入れずに弱い火で四十分間煮ます。それでも水が出ますから水を切って裏漉しにして一合のスープへ混ぜて十分間煮て塩味の外に砂糖を小匙一杯ほど加えて出します。鑵詰の物はそのまま水を切って裏漉しにします。これには牛乳も玉子も要いりません」(付録)
こうしてみると、『食道楽』では生・缶詰のトマトとビン詰のトマトソースとして、シチューなどの煮込み料理か、カツレツ等のソースの材料として使われているようです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ちなみに、『食道楽』には「食道楽料理法索引」がちゃんと載っています(明治人は綿密ですね)。「索引は五十音に別ちたり、読者の便利の為ため正式の仮名によらず、オとヲ、イとヰ、の類るいは皆近ちかきものに入いれたり」とあります。
その索引に登場するトマト関係は、以下の通りです。
シタフトマト(スタッフドトマトですね) 秋 第二百三十一 暑中の飲物
トマトソース 夏 第百七十五 徳用料理
トマトスープ 秋 第二百二十五 赤茄子あかなす
トマトシチュー 秋 第二百三十一 暑中の飲物
トマトスープ 冬付録 病人の食物調理法の「第四十四 トマトスープ」
|
|
コメント:0
まだコメントはありません。
コメントを投稿する