ツル植物をめぐる様々な関係Part 1:アフリカの森で木が倒れる時

2020 7/13 総合政策学部の皆さんへ 今日の話は“ツル植物”をめぐる生物間の関係です(つまりは生態学です)。

 今からもう35年も前のことになってしまいましたが、私が東アフリカのタンザニア連合共和国西部、タンガニイカ湖畔のマハレという場所で、国立公園建設という名目で国際協力事業団(当時、現在の国際協力機構;JICA)の派遣専門家として滞在していた頃の話です。

 マハレでは1年は5月半ばから10月半ばごろまで続く乾季と、10月半ばから5月はじめ頃まで続く雨季の二つの季節に分かれます。乾期は5か月間ほど、ほとんど雨が降りません。その間、川の水はだんだんと減り、下流から上流に向かって徐々に枯れていきます。流れがとまり、水たまりで泳ぐ小魚たちはやがて取り残されて、干からびてしまう、そんな世界です。一方、雨季は雨が降り続きます。多い年には年間2200mmほどが降ります(ちなみに、三田の降水量は1,239.9mmに過ぎません)。

 したがって、7か月間に多いとしては三田のほぼ倍の雨が降る。乾季はとことん乾ききってしまい「まるで心まで干からびる」感じなのですが、雨季は逆にとことんジメジメして「脳味噌までカビてしまう」感じです。

 そんな雨季に、チンパンジーを探して森の中を切り開いた観察路を歩いていると、毎日のように「ドスーン」という、近くで聞けば地響きのような音が聞こえてきます。それは巨木が倒れる音なのです。

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 どうしたことかというと、アフリカの雨林ではいたるところで、様々なツル植物が巨木にまとわりついています。光合成に必要な光を求めて、彼らは巨木にまとわりつき、しがみつくことで巨木の樹冠をさらに覆うように葉を広げようとしています。彼らは光を求めて、一種の“ずる”をしているとも言えるでしょう。

木本性つる植物は巻き付く、貼り付くなどして周囲の樹木等(ホスト)に取り付き、その樹木に自重支持を依存しながら成長する。樹木では自重を支えながら高く成長するため茎肥大に大きな資源投資を必要とするのに対し、つる植物の成長様式はその分の資源を茎伸長と葉量増加へと振り分け、よって資源を効率良く用いて生育空間と光合成生産を拡大する戦略である。

 この戦略は、光競争の激しい環境で優占する上で、あるいは生産性の低い林内環境で成長を維持する上で大きな利点となる一方で、常にホストを獲得する必要があり、ホストが枯死した時に巻き添えを受ける等の制約を受ける。長期的には必ずしも効率の良い個体成長を可能にするわけではなく、さらに地面まで完全に落下するリスクも内包する不安定な成長様式とも言える」(Wikipedia「つる植物」)

 こうしたツルはどんどん太くなり、かなりの直径になる場合もあります。また、葉もいっぱいに広げます。雨季、そこに雨が降ると、濡れることでツルや葉はずっしりと重くなり、何本もまとわりつかれるとそれは馬鹿にならない重さになります。また、あまりに巻き付かれると、樹冠がツル植物の葉で覆われて、せっかく、隣の巨木に負けまいとして数十mの高さまで伸びたのに、樹勢が衰えることも珍しくない。

 また、熱帯雨林の巨木の根は温帯の樹々と違って、地中にあまり深く伸びず、むしろ、地表を覆うように横に広がります。つまり、。これは熱帯雨林では物質循環が早く、地表下にあまり土ができないことも関係しているでしょう。熱帯では地層が貧弱なため、土台が必ずしもしっかりしていません。

 こうしたわけで、雨季になると樹勢の衰えやツル植物の重さの故か、巨木が突然倒れてしまうことが珍しくなるなるわけです。調査者としての私にとっては、こうした巨木がしばしば観察路にほぼ覆いかぶさるように倒れることが多いのです。その場合は、せっかく伐ったばかりの道が何十mもわたって、巨木とそれに絡みつくツル植物で完全に埋まってしまうことになります。

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 それにしても、上記のように「常にホストを獲得する必要があり、ホストが枯死した時に巻き添えを受ける等の制約を受ける」リスクにさらされる人生を“愚か”と思われるかもしれません。大昔、高校時代に、古典の文例で松平定信(実は、私はこの人が苦手ですが)が、藤か何かを例にあげて、その虚しさをたしなめている文章を読んだ記憶がかすかにあります(あまりに昔のことゆえ、他の人の文章かもしれませんが、いまは確かめる術がありません)。

 これも植物による戦略に潜むベネフィットとコスト/リスクのバランスというべきかもしれません。他の木(=ホスト)に絡みつくことで、低コストで利益を上げながら、相手の樹勢を弱らせ、まるで無理心中のように文字通り“共倒れ”になってしまう! やはり、定信君でなくても、皆さんはこんなことをしないようにね、と言いたくなるところです。

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 その一方で、こうした巨木の死は多くの生を目覚めさせます。巨木が倒れた後に、樹冠に出現する“ギャップ”によって、林床まで光が届くや、それまで数十年にもわたって隠忍自重してきた埋土種子等が一斉に成長を開始するのです。

 もちろん、その後に展開するのは成長し始めた若木同士の熾烈な競争であり、やがて生き残った少数の個体だけが光を求めてさらに成長していくことになりますが、それがいわゆるギャップダイナミクス、「森林が、部分的に壊れては遷移することを繰り返し、全体としては極相の状態を維持する」(Wikipedia)ことにつながっていくのです。

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プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...