2021年5月

豆腐の冒険、食品をめぐってのビジネス・プランと異文化交流:食べることについてPart14

2021 5/19 総合政策学部の皆さんへ

 皆さんはTofu Shake、あるいはTofu Smoothieとはご存じですか? ご存じ、Googleで(英語版)でググれば、即座に答えがでてきます。試しにTofu smoothieで検索すると24,800,000件がヒットしました。

How to use silken tofu in fruit smoothies for tasty, high-protein breakfasts & snacks”というHPを閲覧すると、まず、材料を集めます。それは、以下の通りです(和食の豆腐のみのイメージの方は絶句されるかもしれませんが)。

・1box silken tofu (about lb/450 g) (絹ごし豆腐1箱)
・1cup (140 g) cherries ([冷凍]サクランボ1カップ)
・1cup (150 g) blueberries([冷凍]ブルーベリー1カップ)
・1tablespoon (15 g) pineapples ([冷凍]パイナップル大匙1)
・1tablespoon (15 g) peanut butter(ピーナツバター大匙1

 それでは作り方はというと、

・Gather the ingredients(材料を揃える)
・Cut the silken tofu into cubes(豆腐をサイコロ状に切る)
・Cubes of silken tofu on a blue platePin(豆腐をブレンダー[ミキサー]に入れる)
・The ingredients for a fruit smoothie made with silken tofu(フルーツとピーナッツバターを加える)
・Blend the silken tofu, fruits, and peanut butter until the ingredients become a smoothie. You may need to stop the blender periodically to stir the smoothie or push down the fruits that cling to the sides of the blender to get an even blend(材料がスムージーになるまでブレンド。 スムージーをかき混ぜるため定期的に停止するか、ブレンダーの側面に付着するフルーツを押し下げて均一にブレンドする必要があるかもしれません)
・Enjoy the smoothie! A quick breakfast ready in 5 minutes or less!(スムージーをお楽しみください! 5分以内で簡単な朝食の準備ができました!)

 というわけで、私の乏しい料理的センスでは、和食の“白和え”(茹でて下味した青菜、コンニャク、もどしたヒジキなどと搾って潰した(裏漉しすればなお良い)豆腐と和える)のフルーツ・スイーツ版にあたるという印象ですが、皆さんはいかがでしょうか?

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 さて、トーフがいつのまにかTofu shake/smoothieとして(日本人にあまり知られぬままに)アメリカで普及したのには、一人のビジネスマンの粘り強い努力とビジネス・プランの大転換があることがよく知られています(「アメリカ進出 成功の秘訣 その6 3年や5年でアメリカで物が売れるとは考えないこと。10年間支援できないのなら進出してきてはいけない」)。

 1985年に森永乳業からアメリカ合衆国に派遣され、現地法人でトーフを普及されるように命じられたのが雲田康夫さんですが、3~5年で自立という会社の方針にもかかわらず、なかなか売れません。1988年にはUSA Todayの記事で「アメリカ人の嫌いな食べ物」のトップになってしまいます。トールのケースを置き忘れても、誰も盗みもしないという始末です。

 つまりは、「アメリカ人にトーフを日本風に売りつけることは困難だ」ということを思い知らされる羽目になるわけですが、ビジネスプランとしての転機がある日、突然、訪れます。ご本人の言葉をご紹介しましょう。

会社を閉めようかと悩んでいた矢先、ミセス・グッチー(ホールフーズマーケットの前身)という食料品店で、年配のアメリカ人女性がトーフをカゴに無造作に投げ込んでいるのをみかけました。どうやって食べるのかを聞いてみたら、トーフ・シェイクにするという。その時に初めて「豆腐は四角で白い」ということは、アメリカ人にとってはどうでもよいことであることに気がつきました。これまでの考え方を根本から変える必要がありました。日本のままでは売れない。パンには冷や奴はなじまないのです

トーフ・シェイクに出会って元気づけられていたころ、ある日クルマのラジオを聞いていると、有名なアンカーマンのインタビューの中で、ヒラリー・クリントンが「トーフを云々」と言っているのが耳に飛び込んできました。それは「ビルはジャンクフードが大好きで高血圧なので、豆腐を食べさせたい」と言っていたのでした。その上「Tofu」と言っている。アメリカでは「soy bean curd」という単語が浸透していたのに、ヒラリーは「Tofu」という日本語を使っていました。トーフは、じわじわとそこまで浸透していたのです。ヒラリー・クリントンの発言をきっかけに、ニューヨークタイムズやワシントンポストにも取り上げられ、これまで相手にしてくれなかったバイヤーからも注文が入るようになり、トーフが一気に広がっていきました

 まずはアメリカ人に受け入れられる形で、つまりトーフではなくTofuとして売る。それには和食の白和えよりもさらに液体状のShake/Smoothieの材料として紹介する、というビジネスプランが展開していくわけです。

 このあたりのビジネスプランの発想・展開の妙は、皆さんもぜひ体得してもらいたいところです。

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 ちなみに、明治期の日本の食文化に燦然と輝く村井弦斎『食道楽』では、『春の巻』23章が「豆腐」の特集ですが、「妻君は下女に命じて近所の豆腐屋へ走らしめ「お登和さん、お昼の副食物にお汁物つゆものがありませんから餡あんかけ豆腐どうふを拵えましょう。餡かけ豆腐にも何か御伝授がありますか」お登和「別に伝授もありませんがお豆腐を湯煮ゆでる時お湯の中へ上等の葛くずを少しお入れなさい。長く煮ても決して鬆すが立ちません。普通なみのお豆腐でも絹漉きぬごしのように柔くなります」とあります。

 さらに、注釈では「湯豆腐を作るには鍋へ湯を沸かし、葛を少し溶き込み、湯玉の立つほど沸き立つ中へ豆腐を入れ、暫く煮ると豆腐が動き始めて浮き上らんとする時掬すくい揚げて皿へ盛り出すべし。その皿には湯を少しく入れておく。汁は鰹節の煎汁だしと醤油を煮立て大根卸しを添ゆ」と丁寧な説明ぶりです。

 一方、冬の巻の索引を調べると、各巻に豆腐素麺(夏 177)、豆腐飯(秋付録 米料理百種「日本料理の部」11)、豆腐の吸物(夏 90)、豆腐のフライ(夏 140)、田毎豆腐(春 41)、松露豆腐(夏 112)、南京豆の豆腐(春 4)、豚と炒豆腐(春 10)等が紹介されているようです。また、蕗の白和(夏 118)と蕨の白和(夏 119)も登場です。

 一方で、索引等にないものとしては揚げ出し豆腐、そして日本には戦後に紹介されたという麻婆豆腐も見当たりません。また、巻繊汁も出てこないようです。このように、日本の豆腐も時代によって変わっていく。同様に、異文化に伝えていくときも、雲田さんがいうように「考え方を根本から変える必要」があるようです。

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 さて、豆腐にはもう一つ異文化への受容の道がありました。それは欧米の植民地支配を通じてのルートです。それはまた別の機会にしましょう。

プロフィール


高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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