名前の由来Part1:世界は“名前”に満ちています

2021 9/22 総合政策学部の皆さんへ 世界は“名前”に満ちています。

 Wikipediaの「名前」では、「すべての事象には名がある。我々は先ずその対象に名前を付ける。そのためには対象の概念を明確にし、またそれ以外の事象との区別を持たなければならない」と指摘しています。このように、近代文明では半ば脅迫観念のように、「名前」を求めます。そして、「名前」を知らされると、とりあえず安心する。例えば、山歩きをしていて目にした花が「コバノミツバツツジ」であって、「モチツツジ」ではない、ということを教えてもらえば、何か分かった気持ちになるかもしれません。

 もっとも、それだけでは何の進展もないのかもしれません。Wikipediaの「名前」の執筆者は賢明にも「覚える行為に価値があるのではなく、名前を覚えることで、それまでどれも同じに見えていたものの区別がつくようになるからである」と指摘します。とくに、近代科学では「分類」がすべての基本でした。それもすべての人が理解可能で共通な名前が。生物学ではその象徴が“学名”です。

 例えば、日本で「松上の鶴」などと形容されることもあるコウノトリと、ヨーロッパで「赤ん坊をくちばしに下げて運んでくる」とされる“コウノトリ”は同じ種か? 遺伝子レベルで調べてみると、この2種は遺伝的差異があり、分類学の鼻祖リンネが1753年の『植物種誌』で植物を対象に提唱した学名では、前者はCiconia boyciana、後者はCiconia ciconiaという学名が付けられています。なお、学名は属名+種小名の二名法からなっています。これはいわばヒトの氏名=名字(苗字)+個人名のようなもので、種がおかれている位置を系統(=属名)とその種の特徴(=種小名)で表しているわけです。

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 一方で、日本語においても、一つの生き物に複数の名前を付けていることも珍しくありません。典型的ケースはメダカで、分類学的にはダツ目メダカ科メダカ属(学名 Oryzias)に属する種の総称ですが、日本各地で「短いものでは「メ」「ウキ」から始まり、長いものでは「オキンチョコバイ」「カンカンビイチャコ」」まで、実に4680の名前で呼ばれており、こうした地方的な方言名を「方名」と呼びます。それに対して学名にほぼ対応する形で日本語として統一した名称が標準和名です。

 実は、近年まで日本にはメダカ一種(Oryzias latipes)だと考えられていました(なお、中国・台湾等ではチュウゴクメダカ Oryzias sinensis、タイではタイメダカOryzias minutillus、インドではインドメダカOryzias dancenaが生息しているとのことです)。しかし、最近はDNA解析等でOryzias sakaizumii(標準和名としてキタノメダカ)とOryzias latipes(ミナミメダカ)に分けるように提案されているとのことです。

 また、一つの生き物が成長段階(発達段階)で名前を変えることもあり、その典型がブリなどの出世魚です。ブリの場合、モジャコ(6~7cm)→ワカシ(15 cm くらい)→イナダ(40 cm)→ワラサ(60 cm)→ブリ(90 cm)が標準とされますが、こちらも関東ではワカシ → イナダ → ワラサ → ブリ、関西ではツバス → ハマチ → メジロ → ブリと変わるとのことです。とは言えば、標準和名・学名ではブリ・Seriola quinqueradiataで統一されることになります。

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 あるいは、化学の世界では「原子番号11の元素、およびその単体金属」を日本では一般に“ナトリウム”と呼んでいますが、これは「天然炭酸ソーダを意味するギリシャ語の νίτρον、あるいはラテン語の natron(ナトロン)に由来するといわれている」とのことです(Wikipedia「ナトリウム」)。

 一方、英語圏では同じラテン語起源ながら“ナトリウム”とは呼ばずに、“ソディウム( sodium )”と呼ばれています。「工業分野では(特に化合物中において)ソーダ(曹達)と呼ばれている」のはこれが原因なのでしょう。「水酸化ナトリウム」を工業製品としては「苛性ソーダ」と呼ぶわけです。

 また、万国共通であるはずの元素記号としてはドイツ語から“NA”と名付けられているので、かなりややこしいことになる。つまりは、近代化学が発展するなかで、デ・ファクト・スタンダードとして成立してきたわけです。

 さらに別の例では、日本では“ガソリン”と呼ばれる物質は、イギリス英語では“ペトロ―ル”になったりします(アメリカ英語では“ガソリン”なのですが、さらに略されて“ガス”になります)。昔、東アフリカのタンザニアで3年暮らした時には、旧イギリス統治下にあったため、スワヒリ語風に語尾の音が若干異なる“ペトローリ”と言わなければ通じないのに若干戸惑いました。ちなみに、灯油はイギリス英語圏ではパラフィンオイル(Paraffin oil)で、こちらも固形物質のパラフィンを連想して戸惑ったものです。一方で、スワヒリ語では“Mafuta ya taa”、直訳すると文字通り“灯りの油=灯油”でした。

 いずれにしても、グローバル社会におけるコミュニケーションで「名は大事」なのは共通ですから、皆さんも気を付けましょう。

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高畑由起夫
◆研究分野:生態学、自然人類学、霊長類学 ◆研究内容:主な研究対象はニホンザルやチンパンジー、ワオキツネザル等ですが、潮間帯の巻貝類や水生昆虫、カラス等も調べたことがあります。霊長類学の視点で、近縁...

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